第3ゲーム
「時間だ。第3ゲームを始める。」
そう言って今俺達がいる休憩所のような所に入ってきたのはあのピンク髪のクローン、一目見ただけであいつだ。とわかった。
「よっしゃいこう!」
「うん」
やっぱりやけに元気な愛子に対して簡素に返事をしたが、彼女の謎の無敵感はいつしか俺にも移っていた。
ぞろぞろと参加者達は部屋に入っていく。心做しか2つのゲームを終え、皆険しめの表情だった。
部屋の中はよくある教室を思わせる装飾であった。しかし俺たちのよく知る教室よりはずっとボロボロで汚かった。木造の床には掃除しきれなかったのであろう血痕がいくつも残り、椅子や机もとても使い心地の良さそうなものでは無かった。
「好きな席座れ」
参加者が皆部屋に入ってうろうろしているとクローンの男はぶっきらぼうに言った。
「純平! ここ座ろ! ほら!」
愛子がはしゃぎながらバンバンと叩く机は1番前の席だった。ゲームの内容が分からない以上どこの席を選んだら有利に事が運ぶかは不明だが普段圧倒的不人気を誇るポジションを選ばれても困る。
「いや、1番前じゃなくても……良くないか……」
「うーん? あんま最近学校行ってないからよく分かんないけど黒板見やすいじゃん!」
ちゃんと理由を言わなかった俺も悪いが有無を言わさず座らせられてしまった。木のささくれが肌に刺さりそうなくらい古ぼけた分厚い椅子だ。参加者より多い席にはやはり1番前の列は俺達以外座らなかった。
後ろの2列目には斜め後ろに比較的お坊ちゃまっぽい学校の制服の男子が居たくらいだった。後の参加者は後ろに固まっていた。
全員が座ったことを確認するとクローン男が話し出す。
「第3ゲームは授業だ。お前らの態度次第で生死が決まる。俺の事を呼びたければ先生と呼べ。制限時間はこの時計の針が1周したら終わりだ。多少の私語なら許す。周りの生徒と相談して答えを出すのも学びだからだ。わかったか?」
見た目は最初に会った時と何一つ変わってないのにまるで別人になったような口ぶりだ。いや、最初に会った奴はその場で死んだから実際別人だけど。時計には文字盤も無く、実際何時間を指すのか全くわからない。それに授業は黙って1人で聞くもんだろ。周りと相談なんて普段の俺だったらごめんだ。
「それじゃあ初めていこうか?」
『先生』がそう言うと俺達の座る分厚い椅子から急に生えてきたベルトで拘束されてしまう。教室の壁の上の方から順次銃口も顔を見せる。この辺でこれから何が起こるかは何となく察せてしまう。
「面白くなってきたねぇ?」
隣では愛子がにやついている。こいつは学校に行かなすぎてちょっとの違いじゃ普通の授業との違いなど認識出来なくなっているんじゃなかろうか。
先生はおもむろに黒板に大きめに人という字を書く。その時点で愛子は何かを察したらしくそわそわしている。
「じゃ、この漢字の成り立ちは何かな」
人か。小学生の時一瞬やった気もする。でも改めて何かと問われるとハッキリとはよく分からないかもしれない。これで答えられなかったら死ぬとかいうシステムなら結構まずい。
そう一瞬のうちに考えていると、教室の上部からいかにも重々しい銃口がいくつか生えてくる。確信した。この授業で何かへまをすれば死ぬんだろう。いわゆるデス・授業だ。
すると隣から、
「はいはいはいはい!!」
とこの状況には全く似つかわしくない元気さで愛子が挙手する。立ち上がりそうな勢いだ。何故こんな誰が死んでもおかしくないような状況でまず自分の身を差し出すのか。俺には一生理解できそうにない。
「それ金八先生のやつじゃんね! 人と人が支え合ってんだよね!」
「そうだ。じゃあ隣の栗毛。それに関連したことを1つ述べてみろ。」
は? 何? 俺元ネタ知らないんだけど。何に関連した事? 金八? 人という漢字? 成り立ち? 何故教師というものは答えを求める癖に曖昧な聞き方をする? いやこいつ教師かも怪しいが。
一瞬フリーズした俺を見て楽しそうにしていた愛子の表情が曇ったのがわかる。フリーズしている時間が長いほどジリジリと銃口がこちらを向く。このままじゃ死ぬ。なんで? こんな所で?
「別に、人は支え合う必要ないと思いますよ。いがみ合う関係なら変わらないし、全員にそれ強いる必要はないですね」
これ合ってるのか? 合ってる気はしない。延命のための適当な戯言だ。言うにしてももっとマシな事あった気がするが、この先生気取りへの苛立ちで変なこと言った。
「ふぅん」
それだけ言って、そいつと銃口は俺から目を逸らした。正直その反応にも腹が立つが、苛立っていても仕方ない。とりあえず適当にでも答えれば生き残れる。質問の範疇の中であれば。
「もしかして金八とか知らなかった?」
と愛子が聞いてくる。元はと言えばこいつが何も言わなければ今当たらなかったんじゃないか?
「意外と情弱だった的な?」
そういってちょっと笑うから俺はもう何も言わなかった。味方だったはずなのにまた分かり合えてない。ほら、人と人とはいつだって支え合うなんて、無理なのに。
その後も先生は話し続け、様々な問題を出した。抽象的な物は分からなくても適当に答えておけばいい。簡単だし、俺という前例がいた。しかし、簡単な暗算を出してみたり、絶妙に難しめの化学の問題なんか出された奴は可哀想だった。無理に回答しようとして黙りこくったところを射殺された。もうなんとも思えなかった。緊張感の中、流石に寝る奴はいなかった。いてももう、命は無いだろう。
2週目の俺にまた順番が回ってきた。ろくに話ももう聞いてなかったけど、適当に世界への呪言を呟けばクリアだ。
すると先生は次に当てる奴を選べという。黒板だと思っていたものに座席表が投影される。
スクリーンだったのかそれ。誰でも良かった。適当に斜め後ろを指名する。
驚いたのか、後ろからガタッと音が聞こえる、振り向くと、まるで親を殺されたかのような目で俺を睨んでいた。そいつはいい所の坊ちゃんが行くような綺麗な白い制服を少し汚した格好だった。
それに驚いた俺は前に向き直り、周りの音の一切を耳に入れなかった。彼の声も、銃声も何も聞こえなかった。
そうしてついにチャイムは鳴り、授業は終わった。結果として、1番人の死なないゲームだった。
席の拘束は外され、ふと後ろを見ると俺が指名してしまった、彼はいた。一瞬俺の方を睨むと、すぐけろっとした顔になって、
「やあ、さっきのことは別に気にしなくていいから」
と言い放った。俺は安堵したと共に、申し訳無さから次にゲームがあったとしても仲良くしたくはないとも思った。
愛子は相変わらず恐怖のきの字の無さそうで、うちの純平がすみませんね! などと言っている。
彼の表情はごく落ち着いて見えたが、その目の奥に光る鋭い光を感じ取ってしまった。まるで、許さないぞと言われているような。
「何、じっと見てるんだよ……」
「いや、髪染めてるやつの見るの初めてでさ」
ともかく、いい所の育ちなのは間違いなかった。




