第1ゲーム1日目
目を覚ますと、無機質な空間に椅子が丸く並べてあって、起き上がると床の凸凹の跡が顔に付いた。
早速、ベタなやり方だと感じた。周りの奴らは目を覚ますなり、ここはどこだだの、お前は誰だだの非常にうるさかった為、なるべく耳に入れないように努めた。いち早く円形に置かれた椅子の1つに座り、時が経つのを待った。
すると、足元に転がっていたわさわさとした黒髪の男子がおもむろに起き上がり、声も出さずに混乱した様子の後、1番最初に目に入った俺に話しかけてきた。
「あはは……あ、あの、ここはどこなんでしょうか、僕らは誘拐されたんですか?」
話しかけられたら答えるしかないじゃないか。
「さあね。とりあえず座ったらいいんじゃないか」
「はい、、」
隣に座った男子は汗で髪が貼り付いており、見た目に気を使う方の俺にとってはいけ好かない相手だった。
2人でしばらく座っていれば周りの人間もやがて全員椅子に座った。
俺はこれから起こる全てに少しだけ心を踊らせた。
ブゥン……という音をたて、部屋の隅のモニターが点く。
『ようこそ皆さん。希望者の方も、そうでない方も。』
余計な事を書くなと少しだけ俺は思った。
『これから皆さんには、人狼ゲームをしてもらいます』
「どういうこと…?」
「人狼なんて私やったことない…」
不安そうな声も上がる。
『人狼側と市民側に分かれてもらい、投票と襲撃で人数を減らし、人狼を全滅させたら市民側の勝ちです』
『役職カードは皆さんのポケットに入っています。他人のカードは絶対に見ないように。人狼は誰か、話し合いを初めてください。投票は夜8時に行います』
この役職が今回のゲームの運命を分ける。
いやしかし、俺ならばどんな役職でも必ず勝利に導こう。希望を抱きつつ、ポケットのカードを確認する。
人狼。
市民と比べれば不利だが、立ち回りは理解している、はずだ。いざ本番で人狼を引けば、さすがの俺でも緊張する。
仲間の人狼も書いてある。今回の人狼は3人。
1人は……隣の男子だ。最初に話しかけてきた奴。
隣を見るとさっきより汗だくで小刻みに震えている。助けを求めるような目でこっちを見てくるから俺は見るなとアイコンタクトを送った。
もう1人は向かい側に座っている眼鏡の真面目そうな女子だ。そんな女子が人狼なんてやったことあるだろうか。
まあいい、自分が占い師騙りをするだけだからと俺は思った。
今回は狂人もいるが誰かは分からない。活躍にもあまり期待していない。ズブの素人と人狼をしても人狼も狂人も特に仕事をせず、占い師が1人ずつ当てて市民の勝ち、という非常につまらないゲームになりがちだ。
人狼は意外と陽キャそうな奴が上手いこともよくある。パーカーを着た陽気そうな男子には特に注意しようか。
「ねぇ、どういうこと、、?怖い、、」
「大丈夫、俺がなんとかするから」
その陽気そうな男子は隣に座っている強気そうな女子に甘えられていた。さながらカップルのようで参加者達は眉をひそめながら見ていた。
「みんな、人狼を当てるために話し合いしなきゃいけないんじゃないのか」
と、陽気そうな男子が言うが、
「でも、今の状況で分かることなんてなんにもないじゃないか、投票は夜8時なんだろ?」
眼鏡をかけた男子に言われてしまう。
「ぅ……じゃあせめて自己紹介しよう!みんなお互いの名前も知らないよな?」
「そうだな、それくらいならやってもいいだろう」
眼鏡の男子も承諾する。こいつは何様のつもりなんだろうか。
「よし、俺は宇佐美 雄大。高二だ。」
陽気そうな男子がまず自己紹介した。
「…じゃ、時計回りで。」
「川添 奈緒でーす。あたしは高三。」
さっき甘えていた強気そうな女子だ。男子なら年下でも甘えるのか。
「……川田 友里です。 高一です。」
ショートボブの内気そうな女子だ。
「浜田 康行。高一。」
野球部そうな男子だ。いかにもスポーツマンだ。
「ぼ、僕は永井 海琉です。高二です。」
隣の震えている男子だ。かいるというのか。
自分の番になったので俺は前の人にならって自己紹介する。
「蒲田 純平です。高二。よろしく。」
「桜木 弘美。高三。」
左どなりの女子だ。ミディアムくらいの髪だ。
「佐藤 玲央奈、高三です。よろしくお願いします!」
綺麗なハーフアップの女子だ。
「近藤 真実です。高二。」
もう1人の人狼の眼鏡をかけた真面目そうな女子だ。しっかり覚えておこう。
「僕が最後だな。杉本 暖。高三。」
偉そうな眼鏡の男子だ。そうして自己紹介は一周した。
「ところで、人狼ゲームなんてするより、出口を探した方が早いんじゃないか?」
宇佐美が言う。
「出口というか、この施設を少し見て回った方がいいかもしれない。このゲームが何日にも及ぶのなら食料とかその辺も気になる。」
暖の提案にみんな乗ることにした。
この施設はみんなの部屋の繋がった会議部屋に、冷蔵庫の付いた食料部屋、そしてトイレしか無かった。そしてみんなで協力してもびくともしない重厚な扉があった。人狼として全員殺す前にここで数日過ごすことによるノイローゼでくたばりそうだと俺は思った。
自分の部屋のドアにはネームプレート、部屋の中は簡素なベッドと机と椅子とモニター、クローゼットには自分の着てた制服と全く同じものが数着かかっていた。気味悪さを感じる。
すると突然ノック音がして、海琉が入ってきた。俺にもビビってたくせに、よく入ってきたもんだと思った。しかし部屋に入ってきてくれたのは助かる。
「あの、、」
「ようこそ、早速作戦会議しようじゃないか」
「ああ、、それもそうなんですけど、人狼って何をすればいいのかなって……」
「人狼は初めてか?じゃあ俺の指示にだけ従って、余計はことはしなきゃいい」
「なるほど……」
「まず、今夜の最初の会議で占い師は騙るなよ」
「な、いきなりそんなことする訳ない!」
「まあそれならいいんだが、もう1人の人狼とも話しといた方がいいと思うんだけど、会議部屋も部屋が直通だし部屋に入るとことか見られたら疑われる可能性もある。お前がここに来ちゃったのは仕方ないけど。」
「はい……」
そのまましばらく同じ部屋にいたが所詮初対面だし話すこともなく、時間が過ぎるのをじりじり待つだけだった。
俺はたまらなくなってきて外に一旦出てみることを提案した。自分でも一貫しない事を言っていると思ったが、慣れない環境なので仕方ないと割り切った。
食料部屋に行くと女子が二人いた。
川田友里と佐藤怜央奈だ。2人も8時までの時間潰しだろう。2人でそっと隣に座った。
「あれ、君たちもいつの間にか仲良くなったの?」
「まあ、なんだか気が合いそうで」
玲央奈に聞かれたので俺が答える。
「そうなんだ?私達もここで会ってね、友里」
友里はそっと頷く。人見知りなのだろうか。
「君も、これどうぞ。海琉くんだよね?」
「あ、はい。ありがとう…!」
海琉はこんな状況でも輝くような笑顔の玲央奈にお菓子を渡されて赤くなってしまった。
「ふふ、2人とも、部活とかしてるの?」
「あえ…僕は何にもしてなくて」「俺も、所詮帰宅部だな」
学校に時間を割きたくない2人だった。
「玲央奈さん達は、部活とかしてるんですか?」
「さんとか付けなくていいよ、私はテニス部」
「私は美術部で……」
「へぇぇ……」
海琉はますます赤くなったようだった。
俺はたわいない会話をする3人をお菓子を食べつつ呆れたような目で見ていた。それも仕方がない、これから起きることを何一つ理解していないのだから。
話していれば時の流れるのは早いもので、いつの間にか8時近くになっていた。ぼちぼちと会議部屋にも人が集まり始める。
「おい、まだ出てこないやつ呼んでこい、8時になったら投票して処刑しなきゃいけないんだろ?」
「処刑とか物騒なこと言わないでよね?」
宇佐美と川添が話している。
「8時から話し合うんじゃなくて?」
仮眠していて起こされてきた桜木が不満そうに部屋から出てきた。
「バカ、8時に投票だぞ」宇佐美が強めに訂正する。
「みんな集まったな?さっきのモニターの説明によれば、誰か1人投票で選ばなきゃいけないみたいなんだよ。だから、誰か選ぼう」
「そんな、人狼ゲームといっても初日の投票の段階では何も分かってない、あまりにも危険じゃないか」
暖が眼鏡を押し上げながら言う。
「でも誰か選ばなくちゃだぞ」意見を変えない宇佐美。
「じゃあ、一人一人に誰を選ぶか聞いてったらどうかな、みんなお互いの事よく分かってないし、選ばれても恨みっこなしってことで」
と、俺が提案する。俺の意見は受け入れられ、1人ずつ意見を言っていった。
「あたしは雄大でいいと思うけど?」と奈緒。
「は?なんで俺…」
「だってリタイアしたら出れるかもしれないじゃん?どうなるかわかんないけどさ」
「それも一理あるかもな」
「僕も宇佐美でいいんじゃないかと思う。議論を仕切りすぎるやつはこの先危険になりうる」
と暖。
「いや、杉本のその意見が議論を操ろうとする人狼に聞こえる」
真実はさっそく疑っていくようだ。
「市民こそ議論が大切なんだろうに…」暖は納得いかなそうだ。
「私も暖がちょっと怪しいかも」
と弘美。
「私は誰でもいいかな、くじ引きとかでいいんじゃないかな?くじできるものがないか…」
「私も」
さっきの2人だ。
「海琉くんと潤平くんは?どう?」
「えっと…!僕は宇佐美くんかな」
海琉は玲央奈に名前を呼ばれて驚いている様子だ。
「俺は誰でもいいかなって」
俺は人狼以外の人間なら本当に誰でもよかったので、首を触ってごまかした。
その時、首に絆創膏のようなシールの上に針が刺さっているのに気がついた。俺は非常に嫌な予感がした。
「浜田は?」宇佐美が誘導する。
「俺も…誰でもいいと思う。まだ良くわからない」
「じゃあ、俺って意見が多いな?」
モニターにはいつの間にか、『投票の時間までに対象に指を指しておくこと』と表示されていた。
各々対象に指を指し、宇佐美を指しているものが一番多かった。
「なんであたしを指すのよ」
「だって一番に俺って言ったろ」と奈緒と宇佐美が話す。
そして、分針は8時を指した。
「8時だ」と奈緒が呟く。
ブシュッッ
その瞬間、完全に油断した宇佐美の首筋から血飛沫がとても勢い良く吹き出る。
丁度シールの箇所からであった。
「ちょっっっ!? 何事!?!?」
宇佐美の隣にいた奈緒は血飛沫を浴び、混乱していた。
力なく横たわる宇佐美を見て、現場のパニックは更に酷くなった。皆席から立って逃げるように部屋へ戻っていった。
「待って!どういうこと!?」
「玲央奈ちゃん!」
海琉はとっくにパニックになった玲央奈を守るように別の部屋へ行った。
俺は思っていたより酷い有様に立ち尽くすしか無かった。これが、ゲームか。
このゲームは大事な説明が抜けている。
投票、襲撃された人間はリタイア、すなわち、死。
つまりこの人狼ゲームは限りなくリアルって事だ。