高貴なる者の墓場
リリィはエズラたちが基地にしている洞窟に着くと地下に案内された。山中の洞窟は通路が狭く、手に持つ松明がなければ真っ暗闇である。エズラの部下たちがここを「高貴なる者たちの墓場」と呼ぶわけもわかった。不用意に侵入しようものなら、ひどい目に遭うだろう。
地下は(何を基準にして地下と呼ぶのかは不明だったが)、それでも広い方だった。いくつか部屋があり、家具らしきものも備えられている。一番広い部屋は集会室で、石の円卓が置かれていた。皆で話し合い、作戦を練るための円卓だ。
リリィが寝室でランプのあかりを見つめながらぼんやりしていると、少女が扉から顔をのぞかせた。意思の弱そうな眉をした少女だ。特別美人というわけではなかった。だが、亜麻色の柔らかな髪の毛や薄い灰色の瞳や、優しげなハート形のくちびるが目を引く。白い簡素なドレスを着ていた。足首と木靴の見える短いスカートだ。耳には小さな翡翠の耳飾りをつけている。年のころはリリィと同じくらいだろうか。
「こんにちは。どうぞ部屋に入って。あなたがフランシスかしら」
リリィが優しく声をかける。
「ええ、エズラの妹のフランシスよ。フラニーと呼んでちょうだい。あなたが皇女さま?」
フラニーがおそるおそる聞いた。
「そうよ。リリィというの。じきエズラと結婚するから、私たち姉妹になるわ」
「姉妹ですって。妹や姉さんがほしいとは思っていたけれど本当になったのね」
フラニーがリリィを見て微笑んだ。
「あなたも結婚するって聞いたわ」
「ええ、ギーとね。エズラが決めたの。でも今はそんな話したくないわ。上の『迷路』の中にちゃんとした部屋があるって知ってた?きらきら光る水があってね、幽霊が出るんですって。おかげで誰も寄りつかないわ。行ってみたいと思わない?」
フラニーがたちまち打ち解けて話し出す。
リリィは困り顔をした。
「さあ、行ったところで帰ってこれるかしら」
「あら、平気よ。私記憶力がいいの。戻ってこれるわ。それにここに何日いると思ってるの。兄さんに連れてこられてからずっといるのよ」
おしゃべりなフラニーはこの洞窟について興味深いことを話してくれた。
エズラと山賊がこの洞窟を見つけたのは偶然のことである。入るとすぐに骸骨に蹴つまずいた。道に迷って帰れなくなったらしい。洞窟はいくつもの通路と、さきほど話した幽霊の出る空間、二、三の部屋と地下から成っている。明らかに意図的に造られた洞窟だった。だが、エイダの宮殿よりも遥か昔からあったに違いない。人骨と共に転がっている、死者の武器や道具が古さを物語っていた。リリィはタチアナ・ヤールの霊廟を思い出す。あの霊廟も洞窟で、エイダ宮殿の建つ山にあるのだ。
二人がお喋りに興じているとエズラが入ってきた。フラニーが気乗りしない様子で部屋を出ていこうとする。
「兄さんはこんな綺麗な人を奥さんにするのね!でも結婚してからどこに住まわせるつもり?ここじゃあ、女は耐えきれないわ」
フラニーの饒舌は兄の前でも直りそうになかった。
「じき用意する。それにここは完璧な要塞だ」
エズラが言う。
フラニーは「焼き討ちにあったらおしまいじゃないの」と言いそうになったが、兄の殺気だった顔に、すんでのところで堪えた。だいたいエズラはこの洞窟の弱点を知っているのだ。だから山全体に罠やら見張りやらが散らばっている。
「お前はギーと結婚する。文句は言うなよ。ギーにはちゃんと手足がついてるし、俺が生活も不自由させない。奴がお前を殴るようなことがあれば、俺に言え」
エズラが逃げようとする妹の腕をつかんで言った。
「それはそれはお優しいこと。ご厚情に涙が出ちゃいそうだわ。でも教えてちょうだい、もしお兄さまに殴られたら誰に言えばいいの?ギーじゃだめねえ。お父様かしら?」
フラニーが生意気に顔を歪めてしゃべる。エズラが手を振り上げた。フラニーが顔をかばう。が、エズラが手を止めると、フラニーの腕を離した。
「俺の前で父のことは言うな。今度言ったら奴隷に売り飛ばすぞ」
リリィは呆気にとられて兄妹を見ていた。




