スキャンダルの偽装
「あなたを傷つけるつもりはない。こうするしかなかったんだ」
レネーは寝室の扉に鍵をかけると、リリィに向き直ってそう言った。冷静な口調だ。
リリィは朦朧とした頭で、レネーを見た。寝台に寝かせられている。手足は縛られていなかった。服装にも乱れた様子はない。
レネーはフランクの反対を押し切って結婚するために、リリィをさらってきたのだ。とはいえ彼も将来妻になる女性に乱暴を働くつもりはなかった。皇女とレネーが一夜を共にした信じさせ、エドマンドから妻を奪う計画である。
「怖いわ。帰らせて」
リリィは恐怖で震えながら言った。
「それはできない。あなたを妻にしなければ。僕の愛と人生のためだ」
レネーがそう言って、グラスの赤ワインを飲み干す。
王子は蒼白な顔をしていた。瞳が奇妙な具合に光っている。
「愛ですって。人生ですって。よくも父の家で、こんな汚らわしいことをできたわね」
リリィが怒って言った。
「あなたにも他に道はない。もう手遅れだ。噂が広がれば、あなたに名誉はない。僕と結婚するしかないんだ」
レネーがリリィの手首をつかんで言う。
「父や兄があなたを殺すわ」
皇女が低い声でおどしつけた。
「皇帝もあなたと僕との結婚を願っていた。どの父親がエドマンドやギーのような男に娘をやりたがる?リリィ、聞くんだ。僕は今日ここであなたに乱暴を加えたりしない。夜明けまで、城の使用人や兄が来るまで一緒の部屋にいるだけでいいんだ。結婚したら不自由はさせない。エドマンドにも危害を加えない。これはあなただって望んでいたことだ。
一目見ただけでわかった。あなたはここでは不幸な娘だ。僕は不幸な運命から救うことができる。だいたい、あなたが先に求婚し、あなたがハンカチを渡してきた」
リリィは泣きそうだった。メアリーのことを思う。彼女が今リリィがどんな目に遭っているか知っていたなら!メアリーならどんな時でもリリィを助け出してくれるだろう。
「じゃあ言うわ。あなたなんか愛していない。大っ嫌いよ」
皇女がありったけの声で叫んだ。
レネーの蒼白な顔がますます青くなる。だが、彼は激情に駆られて逆上することはなかった。まったく冷静に、顔にはなんの感情もたたえずに、リリィをベッドに押し倒したのだ。
軽い悲鳴をあげる。レネーの蒼白な顔が近づいてくる。目を閉じた。うなじに冷たく、やわらかい唇があたる。
リリィは息を押し殺し、待っていた。




