和平の協定
ドゥーサ川沿いのイリヤの要塞で、エイダとの協議が開かれた。ついに二国間で和平が実現したのだ。
フランク王は何のために争ったのか忘れかけていた。だが、家臣や息子たちの意見もある。皇帝なる人物に威厳を示さなければならなかった。
会議にはイリヤ側からはリチャード皇帝とアレックス皇子、テリー公、エイダ側からはフランク王と三人の王子が出席した。
取り決めはこうである。
ドゥーサ川の通行権は両国が持つ。だが、何キロ以上の商売目的での品物を船及び筏に積んでいいのは、イリヤだけである。また、二十人以上の乗客をのせた船はエイダ人に限って禁止する。かねてから両国間の争いの原因となっていた北エイダの領地はイリヤのものである。ただし、川の上流側、山脈の向こう側の土地については、イリヤ帝国は権利を放棄している。
和平が結ばれても、エイダ人は笑わなかった。ただし、酒と女が出てくれば別である。要塞で宴会が始まった。
「義理の息子に乾杯!」
フランク王が娼婦を手荒に膝の上にのせて言う。
アレックスはそれに応えて、杯を持ち上げてみせた。フランクは赤ら顔でもうご機嫌である。
王とアレックスはエイダの宮殿で知り合っていた。アレックスがカリーヌ王女の護衛を願い出たのだ。ともかく、王女の誘拐については何も起こらずに終わった。農民の罪の無い噂話だったのだろうか。
広間の向こうに王女が立っている。アレックスを探しているようだ。皇子は視線を落として、しばし城に残してきた愛人のことを考えた。すらりとした、赤毛の美しい女、瞳に深い絶望をたたえた女のことを。
乳房を露出させ、甘い声を出す娼婦をやんわりと押しのけ、出口へと向かう。王女は困った顔をして立っていた。
イリヤ城では和平の締結の知らせを受け、宴の準備が進んでいた。城中のものが大忙しである。リリィとて例外ではなかった。花嫁修行の大詰めである。おぞましい母親から離れられる安心感もあったが、親しくしていた人たちの別れが近いことを思うと、胸が引き裂かれそうだった。
メアリーは合図が来るたびに、魔女のところへ行き、情報を渡した。レモン汁で髪を脱色する方法を試してみたくなったらしい。最近は日焼けして、顔色も健康的になっていた。
「魔女は皇妃の弱みを知っているはずなのよ。トゥーリーンだって知ってるはずなのに、教えてくれようとしない。あの人ほど口の固い人って見たことないわ」
メアリーが口を尖らせて言う。
二人の少女は夜中に起き出して、情報交換するのがここ最近の習慣となっていた。他に安全に話せるときがないのだ。
アビゲイルはもう皇女の寝室で寝なくなっていた。心身の状態が優れないらしい。
「口のかたいことって良いことでしょ。ねえ、トゥーリーンは他に何か話していた?なんでも教えてよ」
「いいわ、でもそんなんなら、直接会えばいいのに。トゥーリーンは魔女にもあなたのことは言わないはずよ」
リリィはぼんやりとした笑みを浮かべて、首を横に振るだけだ。




