監獄にて、婚約者にして従妹
ウージェニーはトルナドーレ家の一人娘だった。従兄弟にはジョンとマティアスがいたけれど、二人とは会話がかみ合った試しがない。兄弟で楽しそうに過ごしていたところを、ウージェニーが来るだけで興醒めして静かになってしまうのが嫌いだった。どちらにしろ、ジョンとマッツは夏の間しか帰ってこなかった。今はもう夏だって帰ってこない。
話し相手には、ソムベリーの領地の未亡人の娘が雇われていたが、ウージェニーの孤独を癒すには不十分だった。父も母も幼い頃になくしている。妹がいればよかったのに。
老トルナドーレ卿は死にかけていた。そうでなければ、ウージェニーは監獄にいる従兄に会いに、ソムベリーの城を抜けてくるなんてことできなかっただろう。
旅は孤独で、馬車がゴトゴトと揺れるせいで不愉快なものだった。
肝心の従兄は会いに来てもたいして嬉しそうな顔をしない。しゃべる言葉も見つからず、きまり悪そうに手枷足かせの金属音を鳴らしていた。
「会いに来たの、ジョン兄さま」
ウージェニーがジョンの薄汚れた服の袖を盗み見ながら言う。
「何か力になれればと思って」
ジョンは服だけでなく、顔まで薄汚れていた。一方のウージェニーは髪に一筋の乱れも見つからず、ガウンに一つのしわも見つからず、清潔そのもの、高貴な令嬢そのものだ。
「やさしいね。それは有難いよ。テリー公には会ったかい?彼が裁判で俺を守ってくれる。無実を証明してくれるんだ。正確にはテリー公の雇った弁護士が、だけど。まあでも、細かいことは気にしないでテリー公に会うといい。彼はきちんとした格好のお嬢さんなら喜んで会うよ」
「テリー公にはもうお会いしたわ。親切な方ね。私にもあなたにも、とても良くしてくれて。泊まる宿まで教えてくれたわ。エイダとの和平の宴が終わるまで宿代をもつとまでおっしゃってくださった。でも、宿代は家令が出してくれたので払うつもり」
ウージェニーが俄然元気づいて言う。
「そりゃあいいね」ジョンが皮肉めいた調子で言った。「帝都は広いだろう?誰か案内してくれる人が必要だ。メアリー・トマスを探してお近づきになるといい。俺のいとこだと言えば、城の辺りを案内してくれるさ。金髪の、背の高い美人だよ。宮廷では有名だから探すのに苦労はしない。不機嫌だと相手してくれないかもしれないが」
「メアリー・トマスの話なら聞いてるわ。お妃さまにご寵愛されている令嬢でしょ。つい先日、魔女の呪いにかかって見事な金髪が燃える柴かなんかみたいに赤毛になってしまったんですって。信じられない話よね、お兄さま。お妃さまは心底怒ってしまって、魔女の棲み家に軍隊を差し向けるつもりなのよ」
「ちょっと待てよ、ウージェニー、燃える柴なんて表現初めて聞いたけど、それ本当なのかい?それに、『お兄さま』なんて呼ぶの、やめてくれ。俺たちは一応婚約しているんだし、だいたい君に兄らしいことなんてしてやれたことがない。君が寂しがっていたことなら知ってるよ。だけどこの通り、寂しいのを知っていて仲間に入れてやらなかったんだからな。俺のことなんてうっちゃっておいて、蛮族の行進や、馬上槍試合を見に行った方がいい」
ウージェニーはちょっと悲しそうな顔をした。
「お兄さまが私のこと、好いてないのは知ってる。私との婚約が気に入らないことも。でも、マティアス兄さまみたいに駆け落ちでもしない限り、婚約を取り消すなんて不可能だわ。お祖父様はジョン兄さまじゃなくて、私に領地と財産を遺すの。遺言書にそう書いたって、直接言われたのよ。この意味がわかるでしょ?お兄さまも、私も他の人と結婚できないの。だって私はね、他の人と結婚したら女領主としての権利が剥奪されてしまうのよ。極貧の中で生きていく覚悟があるなら別だわ。でも、お兄さまも私もそんな人じゃない。私の存在がうとましいでしょ。今だって、この独房から出ていって、早く一人にしてほしいって思ってる。でも、私から永遠に逃げることなんてできない。愛してほしいなんて厚かましいこと言ってるわけじゃないわ。薔薇の花も、愛の言葉もいらない。ちゃんと向き合ってほしいの」




