表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇女リリィの結婚物語  作者: 緑みどり
黒い秘密
52/123

陵辱のあと

 目を開けるのが怖かった。微かな波の音。人の気配。手足は柔らかで清潔な寝具しんぐにくるまれているらしい。四肢ししの感覚が麻痺まひしていた。阿片あへんを服用していたのだ。さもなければ、身体中が痛んで、寝るどころか、呼吸さえままならなかっただろう。意識も朦朧もうろうとしていた。


「レイチェル」

 誰かが名前を呼んでいる。


 薄目うすめを開けた。少女の顔が近くにある。眉間みけんにしわが寄っていた。泣きそうな必死な顔をして、祈りのように文句をつぶやいている。


 金髪が日の光にあたって、きらきら輝いていた。黒い大きな瞳は、病人のようにうるんでいて充血している。少女は質素な紺色の麻のドレスを着ていた。美しい金髪も清楚に白いリボンで一つに束ねている。


「ああ、レイチェル!目を覚ましたのね。よかった、よかったわ。神様に感謝しなくちゃ。でも、その前にあなたに謝らないといけないわ……」

 少女が目に感激の涙をたたえて言った。


 ところが、レイチェルには相手の少女が誰なのかわからない。ただ、ぼんやりとした顔で見つめていた。


「メアリー?」

 扉が開いて、青年が入ってきた。アレックスだ。少女はベッド脇の椅子から立ち上がって、アレックスのもとへ駆けてゆく。


「意識が戻ったわ。ちょうど今よ」

 メアリーが上目遣いで青年におもねるように言った。


「それはよかった。看護婦はどこだ?」

 アレックスが二階にある部屋を見回す。


「お昼寝してるわ。昨日ずっとつきっきりだったんですもの。代わりに私が看病しているの」

 メアリーが答えた。


「メアリー、それはまずいぞ」アレックスがメアリーを部屋の隅に引っ張っていって言う。「君はレイチェルから離れておくべきだ。責めるつもりはない。だが、彼女が真実を知ったら身体にさわる。ひょっとしたら、もう知っているかもしれない。罪をつぐないたい気持ちはわかるが、今は離れておくべきだ。皇妃にレイチェルの看病をしていることを知れたらどうなる?君まで危険が及ぶぞ」


 メアリーは顔をこわばらせてうなずく。アレックスの言う通り、考えなしだった。レイチェルが真実を知ったら、メアリーを恐れ、憎むだろう。それも当然のことだった。


 折悪く、レイチェルの意識が覚醒かくせいした。アレックスの声を聴いて、異様なほど怖がりはじめたのだ。彼がちらりと動くだけで、身体からだをぶるぶると震わせている。


 アレックスの声で陵辱の記憶がよみがえる。自分の体におおかぶさる男。嘲笑。この部屋で死ぬのだという恐怖と絶望。耳元に残る荒い息遣いと罵倒ばとうの言葉。殺されないために、最後の尊厳まで捨て去って哀願した。自分の泣き叫ぶ声が脳裏に残っている。男たちは、哀願の言葉さえもせせら笑った。


「レイチェル、大丈夫よ。この人があなたを救ってくれたの」

 メアリーが怯えきった病人に向かって言う。


 だが近づこうとすると、レイチェルは太陽をもつんざくようなすさまじい声を上げた。

「近寄らないで。あなたが何をしたのか知ってるのよ。私が憎いからって、皇妃に引き渡して、口にするもおぞましいことをさせたの。あなたは魔女よ。地獄の火で焼かれるがいいわ!未来永劫みらいえいごうそうやって苦しめばいいのよ」


 メアリーは小さく悲鳴を上げると、真っ青になってレイチェルの部屋から逃げていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ