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皇女リリィの結婚物語  作者: 緑みどり
海と断崖
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炉端でお話を……

 アレックスがメアリーを心配し、軽はずみな行動に怒るのも仕方がなかった。将来はよき統治者に、偉大な軍将に、と期待されているアレックスは軍人や騎士見習いと多くの時間を過ごしており、彼らがどんな気性の持ち主なのか知っていたのだ。


「どんな連中かですって。話してただけなのよ。あの子達に恋してるわけじゃない。それなのに私がアバズレにでもなったみたいな言い方ね」

 メアリーが負けじと言い返す。

「アバズレなんてそんな言葉使うなよ。君はそんな言葉を使うような娘じゃないだろう?妹と一緒に教育を受けてきた仲だ。それなのに……!一体どこでそんなの覚えてきたんだ?」

 アレックスは今度は諭さとすような口調になった。汚い言葉を使うメアリーが子どもっぽく見えたのだ。この調子で対してくるのなら、アレックスやジョンの知っている、いつも通りのメアリーだ。

 

「リリィのいないような場所でよ。皇帝の娘と一介の貴族の娘が同じ教育を受けてきたと思う?お兄さまったら、口を開けばリリィの話ばっかり。まるで世界中の女の子全員がリリィになっちゃえばいいって思ってるみたい。だけどね、私はとうてい皇女なんかにはなれないわ」


「君に妹になってほしいなんて思ってないし、リリィと比べるつもりもなかった」

 アレックスが言う。


 ジョンが咳払いした。メアリーがわざとらしい空咳にジョンを睨みつける。ジョンはへっちゃらでメアリーのトバッチリにウィンクで答えた。これは効果があった。アレックスもメアリーも怒りを忘れ、張り詰めていた部屋の空気がゆるんだのだ。


 リリィはやっと喧嘩がおさまったのを見ると、安堵してジョンに笑いかけた。ジョンも鷹揚な笑みを返す。今度はリリィがクスクス笑い出した。ジョンの目を見ていると、おかしくなってしまうのだ。何も顔が不細工だからではない。ジョンがいつも可笑しなことばかり言って笑わせてくるせいで、何にもしていなくても笑ってしまうのだ。


「何よ。二人して笑って」

 メアリーがすぐに刺々(とげとげ)しい声でいった。が、顔を見るともう怒っている様子はない。アレックスもホッとしたようだ。


「ジョンのせいよ。ふざけてばっかり」

 リリィが歌うような口調で言った。


「そうだよ。リリィ殿は俺の顔を見るのが好きなようでね。あんまり見つめられると恋に落ちてしまいそうだな」

 ジョンがふざけて言う。アレックスは顔をしかめた。冗談でも妹に手を出すとかそんなこと言うな、ということなのだろう。眉間にしわが寄っている。


「嫌な人。あっち行ってちょうだい」

 リリィがまたもやクスクス笑い始めた。


 メアリーもリリィも「お兄さま方」と一緒に〈崖の家〉に泊まっていくことにした。せっかくの楽しい夜だ。メアリーがこんな機会をみすみす逃すはずがなかった。若い娘たちにとっては滅多にない機会である。


 イリヤ城には〈崖の家〉の使用人が「お嬢様方二人は今夜帰らない」と伝えに行った。そうしないとアビゲイルが娘たちの不在に気づいて、たちまち城中で大騒ぎになるだろう。アレックスとメアリーと一緒にいると言えば、まず城に引き戻される恐れもない。〈風と波の宿〉は正式にアレックスの財産なのだ。


 二人の令嬢はそれぞれ二階の寝室に駆け上がっていって、部屋の中をチェックしてみた。


 大きく、簡素なつくりのベッドが一台。白い、清潔なシーツと羽布団がセットされている。燭台(しょくだい)にあかりを灯す。リリィの部屋もメアリーの部屋も広さは同じだ。海に面した窓があるのも一緒。夜遅いので、その両開きの窓もぴっちりと閉じられている。メアリーの部屋には色鮮やかなタピスリーが掛かっている。タピスリーには馬上の女騎士が織り込まれていた。リリィは自分の寝室にはタピスリーがないのを残念に思った。それだけ見事な出来だったのだ。森の中を、女騎士が鹿毛(かげ)の馬に乗って進んでいる。手には長い槍を持って、何やら果敢な顔をしていた。メアリーとリリィは寝台に座って、しばらくタピスリーを眺めていた。


 夜になると肌寒い。四人は一通り館の中を周ってから、居間に戻ってきた。取り敢えず、館の中にはどこにも幽霊はいないようだ。

 リリィは暖炉の近くの、獣皮の絨毯の上に座って、何度もあくびを噛み殺している。メアリーは赤と黒のネグリジェ姿でやってきて、リリィの隣に座った。

「なんだか冷えてきたわ」メアリーが(たの)しげな声で言った。「お兄さま方、来てくださいまし。炉端でお話しましょう」

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