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皇女リリィの結婚物語  作者: 緑みどり
海と断崖
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ぽっちゃりした愛らしい女の子

 皇子がメアリーに小猿を、リリィに仔獅子こじしを与えた晩、実はレイチェルも贈り物をもらっていた。アレックスはシーグラスの白の香水瓶を、マティアスからは真珠の三個ついた、金の髪留めを贈られたのだ。


 レイチェルはその贈り物を、一階の、狭く粗末な自室に置いている。小窓から差し込んできた、朝日にあたって輝く黄金のくしはお守りのようだった。新しい希望の象徴のような……。一度、自分には身に余るものだ、と断ったのだ。だが、マティアスは〈崖の家〉に来た以上は、受け取らなければならない、と言った。


 レイチェル・モートンはトーウェンヤッハで、五人姉妹の長女として幸せな少女時代を送った。田舎の澄んだ空気は、子どもが育ち、遊ぶのに最適だ。十四歳になる頃には、血色のいい、丸々とした女の子が完成した。太っていたせいで、完璧な美人というわけにいかなかったが、見てて気持ちのよい感じの子である。栗色の髪は巻き毛で、目は明るい蜂蜜色はちみついろ。常識ととくを愛する性格で、いかにも善良そうな目をしていた。一目ひとめで好きになってしまうような外見である。男女を問わず、好かれる子でもあった。


 善良なる両親は五人の娘の持参金をつくるために、長女のレイチェルを都に送り出すことにした。イリヤ城に行く道すがら、乗り合い馬車に揺られて涙ぐんだものだ。厳しいが愛情深い母が恋しかった。一瞬に芝生しばふの上で寝転がったり、舟の上でお姫さまごっこをした妹たちが恋しかった。


 宮仕えは最初が大変だった。まず、コルセットをかたく締めなければならない。友達だって、当てにできる知り合いだっていない。夜には硬く冷たいとこが待っていた。


 その苦労のおかげで、レイチェルはグンと痩せてしまった。せいぜい「ぽっちゃりした」女の子になってしまったわけである。皮肉だが、レイチェルが太ったままだったら、メアリーに「二重顎」だの「男たらし」だの中傷ちゅうしょうされなかっただろう。体重を落としたレイチェルはもう「おデブちゃん」ではなかった。メアリーの脅威きょういになりうる、愛らしい女の子なのである。


 皇女はお祝いの夜以来、レイチェルとの友情を求めるようになった。レイチェルのような友達は、幸福であっても、不幸な生活を送っていても、女の人生には不可欠な存在である。リリィは良識がありながらも、激しい正義感とは無縁なこの女友達を愛した。


「モートン嬢、おいやじゃなければ、〈風と波の宿〉に行きましょう」

 そうやって、皇女がレイチェル・モートンに声をかける光景を、侍女や他の女官たちがよく目にしていた。



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