死に際の老人
レイチェルはすやすやと寝息を立てて寝ている。リリィは途端にレイチェルに対して申し訳ない気持ちが浮かんできた。マティアスとばかり話していないで、レイチェルにも話題を振ってあげればよかった。知らない人に囲まれて、さぞ退屈していたことだろう。
「レイチェルも来ていたのね。リリィ、あなたが誘ったの?」
メアリーが腑に落ちない、という様子で言った。
「いいえ、ジョンよ」
リリィが言葉少なく答えて、ジョンを見やる。
「とにかく、お腹が減ったわ。夕食にしない?」
メアリーがジョンのしたり顔を見て慌てて言った。
アレックスが呼び鈴を鳴らす。メアリーが使用人に食事の支度をお願いした。居間から食堂に移動したというのに、どうしてか白々しい雰囲気はとけない。
みんな食欲がなかった。ジョンだけが鼻歌を歌いながら、鳩のパイを食べている。
「そういえば、マティアス君が生家のソムベリーの方に帰るらしい」
食卓のみんながマティアスの方を振り向いた。
「ジョン、明日まで言わない約束だったろ。お祝いの席が台無しだな」
マティアスが不機嫌そうに言う。ジョンは知らん顔だ。
「どういうことなの、ソムベリーに帰るって。すぐ戻ってくるでしょ」
メアリーが心細そうな声を出した。
「それがだな、とうぶん戻ってこない。トルナドーレ卿の命令なんだ。逆らって老人を怒らせることもないだろ。先が長くないんだ」
「あらやだ。行っちゃだめよ。だいたいソムベリーに行ってどうするのよ?領地経営?お祖父様のご機嫌取り?あなたのことを財産の一つくらいにしか思っていないのに?次男坊は兵隊に入るものでしょ。〈兵舎〉に残って、手柄を立てなきゃ。そうしたら、新しい土地を開拓できるかもしれないわ。上手くいけば、お祖父様から自由になれるのよ」
メアリーが《《大切な友人》》に助言をくれてあげようと饒舌になる。事情を知らないとはいえ、マティアスにはメアリーが小憎たらしくて仕方がなかっただろう。元来思いやり深い彼は怒りをあらわにしなかったが。
「メアリー、放っておけよ。マティアスは馬鹿じゃない。自分で決められるさ。言う通りにしたって、君の酌取りにさせられるだけだからね」
アレックスがおもむろに口を開いて言った。




