2度目の婚礼
ガウンを着る。純白の重たいガウン。かじかんだ白い手。蝋燭のおぼつかい明かりでは、着替えも上手く進まない。
リリィの手ほどの大きさの傷だらけの鏡をのぞくと、蒼ざめた不安げな顔が見返してきた。
「きっと大丈夫ですよ」
マルグリットが言う。
だが、その顔は疲れ切って、目も充血していた。昨日、女主人と高貴な方々の運命を思って泣き明かしたのだ。
「きれいかしら」
リリィが鏡を見て言う。
「ええ、きれいです、奥さま」
マルグリットが優しく言った。
婚礼の前に泣くまい。花婿が待っているのだ。あの人は今夜私を抱くだろう。優しさや繊細さとは無縁な人だから。いずれにしろ、お腹の子のために彼とは寝なければならない。レネーのことは考えなかった。考えたらもう前には進めないだろう。
エズラとリリィの婚礼は盛況を見せた。美しい花嫁に彼らの王。酒が男たちの手に渡り、これからの理想と大義について語り合う。花嫁が王に忠誠を誓ってみせた有り様は、来るべき勝利を予想するかのようだった。エズラ達は婚礼の後にエイダの宮殿を襲い、制圧しようとしていたのだ。
宴の後、エズラは花嫁を抱えて寝室に連れていった。沈黙。不安。花嫁が夫の非情な顔を盗み見る。
花婿は何か物思わしげに床のあたりを見ていた。
結局、その晩エズラはリリィに触れなかった。どれだけ安堵したことだろうか。二人は同じベッドで十分すぎるくらいの距離を保って寝たのだ。
翌朝起きると彼はもういなかった。安全な場所にいるのだ。彼は守ってくれるだろう。リリィの不実な秘密が露呈しない限りは。
その日のうちにエイダの山上の宮殿はエズラの手に、農民たちの手におちた。フランク王の従兄のエドワードは殺され、その遺体は宮殿の外に野ざらしにされる。数ヶ月だけの王だ。宮殿の中にいた貴族や使用人は略奪と破壊の憂き目にあった。
「民衆側の勝利ですよ。破壊と無思慮の勝利です」
ギーは洞窟の中で角笛の音を聴いて言う。
「ギー、お願いだから黙ってよ。あなたのポンコツな皮肉っぷりには我慢ならない」
フラニーが音をあげた。
「勝利したの?」
リリィがとっくに分かりきったことを聞く。気持ちが追いつかなかったのだ。
「ええ、お義姉さま、エズラが勝ったのよ。つまりね、美しく上品な方々は宮殿を追い出され、私たちはついにこの穴倉から解放されるの。兄だって立派な宮殿が欲しかったのよ、圧政者たちとおんなじようにね」
フラニーが言う。
リリィはフラニーやギーの皮肉な話し方が心配だった。いつかエズラの逆鱗にふれるのではないか。
最初剣をもたぬ見た目にだまされて、ギーは単なるうつけ者か道化のように思っていた。だが違うのだ。
「エズラに対して、ずいぶん批判的なのね」
リリィが義妹に言う。
「真実を言っただけよ。昔から兄を知っているもの。お義姉さまは誰のことでも良いことしかいえなさそうだけど」
フラニーが言った。図星である。
とにかく婚礼は勝利に終わったのだ。