君との思い出が欲しい僕は、"秘宝の帽子"で姿を変える。
初顔合わせは十歳の時だった。
王子である僕の未来の妃にと、紹介された女の子。
イヴ・ドラン公爵令嬢。
貴婦人や侍女達とは違う、同い年の女の子はとても可愛くて。
どうしてよいかわからなくなった僕は、彼女に冷たく接してしまった。
以来六年、関係を拗らせ続け、彼女は僕に笑わなくなった。
更に最近。
(想い人が出来たと聞く)
侯爵家の息子ケイン。
(イヴが一層美人になったのは、恋のせいか?)
彼女の幸せの為に、婚約を解消してあげないと。
でも一度でいいから。
僕に笑顔を向けて欲しい。
それを思い出に、イヴを諦めよう。
初代国王が王妃と結ばれたという王家の秘宝。
被れば恋しい相手の姿に見えるという変身帽子を、僕は手に取った。
そして偶然を装い、城下で花祭りを楽しんでいた彼女に声かけ、現在順調にデート中。
帽子を被った僕は、ケインに見えてるんだろう。
イヴはずっと、惜しみない笑顔を僕にくれている。
(惨めだ)
ケインに向けた笑顔だとわかっていても、心弾んでしまう自分が。
こうでもしないと、微笑んで貰えない自分が。
花祭りで求めた花を、イヴの髪に挿していた時だった。
「暴走馬車だ!」
大声に振り返ると、猛スピードの馬と馬車。
咄嗟にイヴを庇ったが、僕らは盛大に転んだ。
「イヴ! 怪我はないか!」
「はい。殿下こそご無事ですか」
「平気だ」
(待て。彼女は今、僕を何と呼んだ?)
慌てて見ると、帽子が傍らに落ちている。
サッと血の気が引いた。
(変身が解けた! どう言い訳すれば)
「っ、これは……」
「この帽子は王家の秘宝ですね? すごく不思議」
「! 知ってたのか」
「我が家にも口伝があります。初代王妃様はドラン家のご出身でしたから」
(何てことだ。誤魔化しようがない)
焦る僕に、イヴが続ける。
「本心帽子。殿下のお心がわかり嬉しかったです」
(え?)
「僕がケインに見えてたりは?」
「なぜケイン様? 殿下はずっと殿下でした」
彼女が言うには、帽子にはイヴへの好意の言葉が次々に表れていたらしい。
好きだ。嬉しい。美しい。
(うわぁ!)
変身帽子と本心帽子。
確かに一字違いだが、両家で伝説が違ったのは事故か故意か。
「ずっと好きだった。素直に言えずごめん」
「私もです……。だからもし好きな方に見える帽子だとしても、やはり殿下に見えていたことでしょう」
恋の噂は、イヴに横恋慕したケインが勝手に流した虚構だったらしい。
奴は厳重にシメ、僕とイヴの仲は良好で。
垂れ幕付き三角帽子を被った甲斐があった!
お読みいただき有難うございました!(*´▽`*)
hensinとhonsin スペルでも一文字!
護衛とかは撒いてます。1000文字制限なのでカット。(;´∀`)
2023.12.22.20:00ラスト部分改稿。
帽子が三角帽になってしまった! 活動報告でいただいたコメントが衝撃過ぎて、どうしても頭から離れなくて! すみませんーっ(≧∇≦;)。マウスで描いた三角帽子絵。こんなかな?
名前の候補、ユール(冬至)とかあったのですが、悩んだ末に普通にケイン。そして殿下に至っては名前出ないという!(気の毒。ノエル王子)
勝手に身を引こうとする彼に、「いやもっと会話しようよ」って思ったのですが、10歳~16歳までのことなので、笑って許したってください。
思い込みの激しい、照れやな思春期でした(王侯貴族だけど腹芸しない人たち)。
今月22日は冬至、ゆず湯の日ですね。寒さが一層厳しい12月後半、皆様どうぞご自愛ください。
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