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サイド:リリアナ


私こと、グライン伯爵家の長女リリアナ=グラインが、麗しき公爵令息ウィリアム=ノーランドと出会ったのは6歳の時だった



あれは、父の仕事で王宮に立ち寄った際のこと


中庭で一人で遊んでいたら、ふと鮮やかな青い蝶が目にとまった


夢中で追いかけたけど結局蝶は捕まえられず、諦めて戻ろうと思ったら、ここが何処だか分からないことに気付いた


『私、迷子になっちゃった、、、』


もう二度とお父様に会えなかったらどうしようと、わんわん泣きながら歩いていたら


「君、どうしたの?」


と見目麗しき少年が声をかけてくれた


『ま、まよっ、グスッ』


「迷っちゃったの?」


優しく問いかけられ、うんと頷く


「君、名前は?」


『リリーでず。グズッ』


すると従者の方が、「きっとグライン伯爵家のご令嬢様ですよ!今日伯爵様と手を繋いで歩いているのを見ました」と気付いてくれた


リリアナが力強く頷くと、「リリー、泣かないで。王宮まで連れて行ってあげる」とウィリアムは手を繋いでリリーを案内してくれた


「自己紹介がまだだったね。僕はウィリアム=ノーランド」


すっかり涙も乾いたリリーは、自己紹介してくれた少年を見上げ、しっかりと見つめる。黒髪に力強い瞳、利発そうな顔立ち。だけど、穴が開くほど見つめるリリーに照れたのか、フワリと笑った時の表情はとても優しそうだった


これが、リリアナ=グラインの初恋となった



◆◇◆◇◆


大人になると、初恋の彼、ウィリアム=ノーランドが、公爵家の長男であることを知った


まだ初恋継続中のリリーは、どうにかしてまたウィリアムと話したい、あわよくば彼女になりたいと考えた。が、相手は公爵家の長男。普通の伯爵家の長女では釣り合わない


だから、パーティで見かけても、声をかける勇気が出なかった


その上、出会った頃はあんなに優しかったウィリアムだが、現在は近づく女性にはかなり厳しく接している様子が見て取れた。きっとよく一緒にいる《色男》ロナルド=カスタムのせいで色々面倒があったのだろう


正攻法では初恋は叶わない、とハッキリ悟ったリリーは、ウィリアムとお近づきになる作戦を考えることにした



◆◇◆◇◆


目をつけたのは《色男》ロナルド=カスタムだ


恋多き彼と恋仲になるのは、それほど難しいことでは無かったし、同じ作戦でウィリアムに近づこうとした女性は、きっと1人や2人ではなかっただろう


けれど、リリーが他の女性達と違ったのは、ウィリアムがリリーへの警戒を解くまでの間は、あくまでロンの事が大好きな女性を《演じた》ことであった


何故なら、長年の観察から推測するに、恐らくウィリアムは彼の周りにいるような肉食系の女性があまり好きではない


だから、リリーがこれまでウィリアムの周りに居なかった、控えめ草食系の一途な女性を演じることで、相対的にリリーの評価があがるのではと考えたのだ


そこに、《色男》ロナルドが浮気でもしてくれれば、ウィリアムだってリリーの事を可哀想に思うはず


恋人になるのは難しいかもしれないが、もう一度、ウィリアムに優しくしてもらえるかもしれない


そうリリーは考えたのだ



だから、ウィリアムに会いに行っても、お菓子を渡すのはロンにだけ。本当はウィリアムだけにあげたかったけど、初恋を叶えるために我慢した。だって、今ウィリアムにお菓子を渡してしまったら、きっと他の女性と同じように警戒されてしまうから


その甲斐あってか、ソルは会うたびにリリーはいい子だと褒めてくれるようになったし、ウィリアムも少し警戒を解き始めてくれているような気がした



◆◇◆◇◆


「ロン。絶対にリリアナ嬢を手放すんじゃないぞ。こんな可愛くて一途な女性、もう絶対現れないんだからな!」


「分かってるよ!ってか今の言葉、マリン嬢が知ったら悲しむだろうなぁ〜」


そう言いながら、ロンがリリーを抱き寄せる。瞬間、ロンのムスクの香りが香る


(実は私、ムスクのムワッとした香りはあんまり好きじゃないの)


鼻をつまみたい衝動を抑え、控えめに微笑む


「いや!俺はそういう意味じゃ無くて!俺は勿論マリンを愛しているけど、リリアナ嬢は誰もが欲しがるような凄く魅力的な女性だろう?こんないい子を泣かせたら、ロン、お前とは絶交だからな!ウィルもそう思うよな?」


「あぁ。そうだな」


カァ///


他意は無いだろうが、ウィリアムが女性を褒めるのは珍しいことなので、嬉しくて思わず顔が真っ赤になる。それを隠すために、咄嗟に俯いた


(冷静になるのよリリー。悲しいけど、ウィリアム様に他意はないわ。ただ、ソル様の話に合槌を打っただけ)


そう思い顔を上げた瞬間、ウィリアムのアイスブルーの瞳と目があった


(ドキッ)


ウィリアムと目があった


直ぐにそらされてしまったけど、大人になって初めて目があった


(あぁ、ウィリアム様、大好きです。貴方とお近づきになるため、私もう少しの間頑張ります。)



◆◇◆◇◆


その日以降も、リリーは変わらず、ロン大好きな令嬢を演じ続けた


時にロンのルビー=トンプソンとやらとの浮気疑惑が耳に入ったが、ロンの事は全く好きではないので、リリーの心は傷つかない



そんなある日、グライン伯爵家にウィリアムからの先触れが届いた


なんと、ウィリアム様が一人で(勿論従者は居るだろうが)このお屋敷に来るらしい



その日リリーは、大興奮で眠れなかった

 


ウィリアムの訪問日は、お化粧も、髪も、お洋服も、張り切って支度した


「リリアナ嬢、突然すまない」


(あぁ、ウィリアム様が私の部屋に。しかも二人きりだなんて。)


『いえ、どうかされましたか?』


でもそんな様子はおくびにも出さずに、返事をする


「あぁ。実は、他国で有名な菓子職人が我が領に滞在していてな。他国で流行っているフロランタンクッキーなるお菓子のレシピを貰ったんだ。お菓子作りが好きな君なら喜ぶかと思って」


てっきりロンの浮気話をするのかと思っていたので拍子抜けしたが、リリーがお菓子作りが好きなのを知ってくれていたこと、リリーが喜ぶと思って会いに来てくれた事が嬉しくて、好きが口から溢れそうになった


『まあ!わざわざありがとうございます!とても嬉しいですわ!』


ウィリアムが自分を気にかけてくれた事で大興奮のリリーは、勢いでこんな提案をした


『あっ良かったらウィリアム様も食べていただけますか?是非お礼がしたいのです』


お礼にかこつけた形になったが、ウィリアムは「あぁ、君さえ良ければいただこう」と快諾してくれた


『はい!』


(嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。ウィリアム様、大好きです)  


喜ぶリリーとは対象的に、ウィリアムは真剣な表情をしていた


(?) 


「リリアナ嬢、今日は実はもう1つ、伝えたいことがあったんだ。大変言い辛いんだが、、、ロン、アイツとはもう別れた方がいい」 


やはり我が家に来たのはこの話をするためだった


『、、、それは、何故ですか?』


「何故ってそれは、、、」


『ロンが他の女性と親しくしているからですか?』


「君、知っていたのか?」


『勿論です。ロンの事はずっと前から見ていましたから。遅かれ早かれ、こんな日が来ると思っていました』


これは本心だ。あの色男ならきっと浮気をしてくれると思っていた


「じゃあ、『でも、私から別れを告げることはありません』


だって、最後まで一途に慕った上で振られる方が、より私が可哀想に見えるでしょう?


「何故?失礼だが、君に合う男性はもっと他にいると思うぞ」


(えっ!?)


思いの他、ウィリアムがリリーを高評価してくれていたことを知り、リリーは天にも召されそうな気分になった


『ご忠告ありがとうございます。ウィリアム様はお優しいんですね』


(ウィリアム様は本当にお優しいです。昔から)


リリーは微笑んだ


恋い慕う気持ちが溢れた潤んだ瞳で


「とにかく考えておいて。今度はソルと来るから」


瞬間、シャボン玉のようにフワフワしていたリリーの気持ちがピシャリと冷えて、思わず身体がピクッと反応する


(今日、ウィリアム様と2人でお話が出来て、私はすごく幸せだったのに。次はソル様もお誘いになるという事は、ウィリアム様は違ったのね)


(でも、あのウィリアム様がこんなにも女性に構うのは本当に珍しいことだわ!もしかしたら、もしかするかもしれない)


期待を胸に、リリーは最後の大勝負に出た



◆◇◆◇◆


ある日のパーティ、ロンと婚約して初めてウィリアムを見かけた


『ウィリアム様?』


「ご機嫌ようリリアナ嬢。貴方のような方が壁の花とは、勿体ないことだ」


(ウィリアム様が私を褒めてくださった。ロンがドタキャンしてくれたお陰ね)


『ご機嫌麗しゅうウィリアム様。えぇ。ロンは何やら緊急事態が発生したとかで今日は来ないのです。ウィリアム様もお一人は珍しいですね。ソル様は?』


「あぁ、ソルは急な伝令で賊の討伐に向かった」


『そうなのですね?ではロンもその討伐に?』


「、、、」


(ウィリアム様が返事をなさらない。ロンなんかのせいで、ウィリアム様を困らせたくないから、別の話をしよう)


『心配ですね。お怪我なされないといいのですが』


「辛くはないか?」


『え?』


「婚約したばかりだというのに、最近ロンとはあまり会っていないのだろう?」


『ふふっ。まさかウィリアム様が心配してくださるとは思いませんでした』


(いや、本当はあわよくば心配して欲しい。慰めて欲しいと思っていたの。だから、願いが叶って、今本当に嬉しいの)


「俺がそんなに冷たい人間に見えるか?」


『いいえ。ウィリアム様はとても暖かい方だと承知しています。ただ、ロンの恋人には一際厳しく接しなさると聞き及んでいましたので。やはり、噂なんて当てにならないものですね』


「君は、、、今までのアイツの恋人とは何もかも違う。君はアイツには勿体ない。今からでも遅くない。傷つく前に婚約を破棄したらどうだ?君の立場が悪くならないよう私が取り図るから」


憧れのウィリアムからの、少し熱の籠もった言葉は、想像以上にリリーの心を震わせた。でも、今のでハッキリ分かったことがあった


(私、ウィリアム様に慰めて貰えればそれでいいと思っていたけど、それだけじゃ我慢できない。やっぱり恋人になりたい!)


欲が出たリリーは、ウィリアムに慰めてもらうという目標は達成したけれど、どうせならロンに振られるまでこの演技を続けようと決めた


『いいえ。私ではロンと釣り合わないことは、初めから分っていました。それでもお近づきになることを決めたのはこの私です。だから、ロンが私を側に置いてくれるうちは、そばにお控えしたいと思います』


「そうか、、、。君がそう言うなら、、。でも辛くなったらいつでも私に相談して欲しい。私はロンとは長い付き合いだが、それ以上に君の助けになりたいと思っている」


リリアナは、素直にその言葉が嬉しくて、頬を染め、目を潤ませた


(後少し。後少しできっとウィリアム様は私を好きになってくれるはず)



◆◇◆◇◆


その1週間後、オーガスト家主催のパーティにて、遂にロンが行動を起こした



「リリアナ=グライン伯爵令嬢。君との婚約は今日限りで破棄させていただく!」


予想していた言葉。リリアナに動揺の色ははなく、静かに、でも芯の通った声で返事をする


『、、、承知いたしました。ロナルド様のお心のままに』


リリーの関心は、婚約破棄された事ではなく、これを見たウィリアムがどう動くかだけだった


「待て」


カツカツと私達に近づく音が聞こえる


「リリアナ嬢。大丈夫か?」


(ウィリアム様だ、、、)


『はい。ありがとうございます』


「ロン、君って奴は。こんな立派な婚約者との婚約を破棄するとは。愚かな、、、。でも、私にとってはそれも好都合だ」


「リリアナ=グライン様。どうか私の婚約者になっていただけないだろうか。私は、生涯貴方を、貴方だけを愛すると誓う」


(あぁ、夢じゃないのかしら?あのウィリアム様がまさかみんなの前で私に告白してくれるなんて)



リリアナは、少しの間固まったが、これ夢じゃないよね!?とまだ疑いながら、おずおずとウィリアムの手をとった



唖然とするロンをその場に残し、ウィリアムと2人で会場を後にする 


ウィリアムが両手を恋人繋ぎにして

「リリー、私はずっと、ロンに懸命に尽くす君の姿に好感を覚えていた。友の恋人だと分っていたが、愛しく感じるのをとめられなかった。私なら、もっとリリーを幸せに出来るのに、他の令嬢に目移りなんかしないのにと」と熱く語ってくれた


ずっと欲しかった言葉に、リリーは身体全身が熱くなる


「リリー、愛している。どうか一生私の側にいて欲しい。私の妻として」


(ウィリアム様、私も、初めてあったあの日から、ずっとずっとお慕いしておりました)


『ありがとうございます。こんな私で良ければ、是非お側に居させてください』



こうしてリリアナは最愛の人からの愛と、幸せな生活を手に入れた

初めての短編、いかがでしたでしょうか?


サブスキルの方はまだまだ続きますので、引き続きよろしくお願いします

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