第7話にして近所で迷子!?
「……俺は独りで行くからいいよ」
ガビーン。
勇気を出してお誘いしたのに断られたー!
「ええっ!? なんで? 私のこと嫌い??」
「嫌いとかじゃなくて……ほら、変な噂されても三楓さん困るだろ」
紳士的な配慮だったみたい。
紅葉くんなりの。
「でも遅刻しちゃうよ! 私近道知ってるから着いてきて!」
私は紅葉くんの袖を引っ張る。
「そ、そう。じゃあ一緒に行こうか」
なんとか一緒に登校してくれることになりました。
これで転校生くんの好感度アーップ!
今年こそはボッチにならずに済みそう!
っていうかまってまって!?
私今男子を誘ったってこと!?
私これからどうなっちゃうの~!?
~10分後~
「……れれ。おっかしいなー。確かこっちのはずなんだけど」
はいそうです。迷子です。
いいとこ見せたかったのに、ああもう私の方向音痴!
「……ひょっとして三楓さんも転入生だったりする?」
「去年から通ってるけど」
「じゃあなんで……」
紅葉くんは何かを言いかけて口をつぐんだ。
何を言いたかったのかはだいたい察せる。
「ごめん紅葉くん! 普通の道ならもうすぐ学校着いてたのに!」
「別に気にしなくていいよ。ちょっと初日から遅刻のレッテルを周りに貼られて評価が下がるだけだから」
うう……彼、根に持つタイプの人だ。
ちょっと苦手かも……。
「スマホは……圏外か。逆によくこんな所にこれるね」
ほんとごめんなさい。
「うーん、もうその辺に住んでる人に聞いちゃうしか……」
「待って!」
紅葉くんが駆け出す。
なんなのなんなの!?
私は紅葉くんの後を追った。
「はあ……はあ……まってよっ! どうしたのいったい!?」
角を曲がると紅葉くんは茂みの裏でしゃがんでた。
あっごめんトイレだった?
「ははっ。白猫だ」
トイレではなかったけど、なんと紅葉くんはネコをなでてた!
ちょっとまってムリムリ!
私ネコ苦手だもん!
1歩下がって距離を置く。
「ね、ネコさん……ああー、それ見かけてわざわざ走ったんだ。紅葉くんはネコ好きなの?」
私はおそるおそる聞いた。
「好きと言えばそうかな」
「でもほら、今は急いで学校に行かないとだしさ」
こうなったの私のせいだけど。
「……三楓さん学校好き?」
うーん。
ネコよりは好き……いや変わんないかも?
嫌いです。
「ふ、ふつーかな」
「学校の評価も大事だけど、どうせ遅刻確定。焦ることない」
「だからってそんなのんびり……! ほら、新学期初日だから友達だって作らないとだし!」
あれ?
さっきまでは紅葉くんがピリピリして早く学校に行きたがってたのに今は私がピリピリしてるような……。
なんか負けた気分!
「俺のことは気にしなくていいよ。友達なんていなくたって別に」
えーっと、私が心配してたのは私の友達の数なんだけどな。
逆になんでこの人は友達にこだわらないの?
「だ、ダメだよ! 友達がいないとすっっっごく、みじめな人生を送ることになるよ!」
「……三楓さん友達多そうだからね」
なにそれどういう意味?
私去年ぼっちでみじめだったけど。
実体験なんですけど!
「「じゃあ今日から!」」
私の声と紅葉くんの声が重なる。
「この子猫を俺の友達にする!」
「私が紅葉くんの友達になる!」
「「え?」」
つまり、どういうこと?
私の唯一の友達の友達は子ネコ?
ししのここじし?
「……紅葉くん? アパートではネコ飼えないよ?」
「いや、えーと、冗談」
なんだ冗談か。
その割にすごい迫真な感じだったけど。
「私は本気だよ。紅葉くんとはきっといい友達になれると思う」
「そ、そう……。まあ、俺でよければ」
よし!
人生初の友達GET!
でもなんか、いい友達になれるって言ったけど長続きしない気がする。
価値観の相違っていうか。
「ええっと、良かったら抱く?」
は、早すぎるよ!
って子ネコのことだよね。そうだよね。
「ごめん、あの、私ちょっとネコ苦手で……」
「あー。ごめん気づかなくて」
「ニャー!!」
子ネコが紅葉くんの腕をスルリと抜け出して近くの石段を上っていった。
ありゃりゃ。
「ごめん! 私が変なこと言うからスネて逃げちゃった」
「いや、猫に日本語は解らないでしょ」
紅葉くんがあきれたように言う。
「むしろ俺が……」
「なに?」
「……いや、今気づいたけどここ神社なんだね」
えっ?
私は辺りを見回した。
ほんとだ階段の上に鳥居がある。神社だ。
「この上なら電波が通じるかもしれない」
そういって紅葉くんは短い石段を上る。
神社にFree Wi-Fiはないと思うなあ。
とりあえず私も紅葉くんの後に続いて石段を上った。
「スマホは……まだ圏外か」
そう言ってる割に残念そうじゃない紅葉くんは周りをきょろきょろ気にしているみたい。
「ひょっとして紅葉くん……スマホの電波じゃなくてネコを追ってきた?」
私の質問に紅葉くんの身体がビクッてなった。
無表情な感じだけど意外とそうでもないのかも。
「そ、それより三楓さん。この神社のこと何か知らない?」
濁された……!
神社、ええっと、神社神社。
あーーーーっ!!
「わかった! ここ天井神宮だよ!」
「……学校との位置関係は?」
「うん、ここが天井神宮だから学校の位置は……」
えーっと……確か、その。
「ダメ、わかんない!」
お祭り行ったことないもん!
去年は誰も誘ってくれなかったし!
「はあ……。じゃあ俺は神社の人に道を聞いてくる」
紅葉くんは神社の境内に向かうとそそくさと中に上がっていった。
こういうとこって入っていいのかな?
私は……どうしよう。
せっかくだし、拝んでいこうかな。
鐘を鳴らす太い紐の前に立った。
えーっと、一礼二拍手三四がなくて五で拝む、だっけ?
お賽銭を入れるタイミングはいつ?
まあいいや適当で。
(紅葉くんに迷惑かけちゃった……。神様どうかお助けを……って神様はマストさんか。あれ? じゃあここなんの神社? っていうか私も神様の力使えるんだよね。じゃあなんかないの!? 地図機能とか)
祈るつもりが超余計なこと考えてた。
すると急に頭が痛み始めた。
えっなに生理ではないよ?
うわわわっ……頭の中になんか流れてくるっ!
えっこれまさか、マストさんに指舐められてるシーンだっ!
なんで今第1話の黒歴史を!?
あっ、まって。
私今わかるかもしれない。
第1話の路地裏への生き方!
「三楓さん。この神社誰もいないみたいなんだけど」
ちょうど出てきた紅葉くんの腕を掴んで引っ張った。
「え、ちょっと!」
「紅葉くん! なにも聞かずに着いてきて!」
私はあの路地へ向かって走り出す。
10分くらい走って……息切れ。
「ちょ、ちょっと……休憩」
あれ? 私どこに向かってたんだろう?
そうだ路地裏の場所、あれ?
わかんなくなっちゃった。
「えーっと三楓さん。手、離してもらえないかな」
あっ、繋ぎっぱなしだった!
「ご、ごめんっ!」
手のひらを見ると手汗が凄かった。
恥ずかしい~!
そりゃマストさんに舐められるよ。
「紅葉くん大丈……」
ぶ……。あれ?
いきなり紅葉くんが私の手を握った。
なになに意趣返し!?
「どどど、どうしたの!?」
「いいから!」
紅葉くんが勢いよく私の手を引っ張る。
彼にされるがままに着いていくと、見たことない路地裏で立ち止まった。
「ここが……だから、こっちか……」
紅葉くんはなにかをブツブツ言いながらまた歩き始める。
あっ、ここわかる!
アパート近くの通りだ!
っていうか私の目指してた路地の一本隣の道だったんだ。
「すごい! ありがとう紅葉くん! 命の恩人だよ!」
「まだ学校じゃない。今から行けば2限には間に合うよ」
そういって彼は歩き出そうとする。
「ええっと紅葉くん? そろそろ手を離してもいいんだけど……」
「ご、ごめん!」
紅葉くんは顔を赤くしてパッと手を離した。
とりあえず学校に行けそうでよかった!
あの神社でお祈りしたおかげかな?
神社が応援してくれた。
これが本当のジンジャーエールってね!
お後がよろしいようで。(よくない)