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第5話に輝く天然光!

「ではこうしよう。私が人間界で働き、賃金をすべてアサに渡す」


「具体的にいくらですか?」


「複数の仕事を掛け持ちし時給1000円を1日20時間。1年で730万円。いや……税金がかかるな。贈与税も……」


「そもそも身元不詳で働けるんですか?」


 まあそんな感じでマストさんと交渉中。

 でも命がかかってるんだし10億でも正直足りないよね…。


「そうだ。マストさんがおでこに付けてる宝石売れません? その緑の」


「だ、駄目だ! これは私の生命そのものだ!」


 なにそれ。

 命と同じくらい大事な思い出の品ぁ~みたいなやつ?


「私の命だってかかってるじゃないですか! ケチ!」


「世界を守れなくては元も子もない!」


 また喧嘩になりそうなところで窓の外からなんか町内放送が聞こえてきた。



 ピンポンパンポーン


『こちらは天井(あめい)市防災課です。現在天井中央地区において不審な生物の目撃通報が相次いでおります。付近の皆様は不要な外出を控え、発見・遭遇した場合は直ちに最寄りの交番か市の電話窓口までお問い合わせください。繰り返します。現在天井中央地区に……』


「不審な生物? なんだろ」


 エビフライではないよね。

 マストさんの方に目をやると、まるでトイレ我慢中みたいなけわしい表情をしていた。


「この気配……闇の眷属か!」


「闇の眷属って、さっき言ってた?」


「ああ。仮にそうなら……」


 そこへ外から人たちの叫び声が聞こえてきた。


「キャアアアアア!!!」


「逃げて! 早く逃げてくださ、グアー!」


「ギヒヒヒヒ……。この(すね)喰い様から逃げられるものかあ!」


 この作品の外からなにか聞こえる率高くない?

 多分アパートの防音性の問題。

 ……じゃなくて。


 私は急いで玄関のドアを開けた。


「く……すでに犠牲者が!」


 外の道路には血、血、血。

 大量の血があふれ、そしてなぜか膝下のない倒れる人たち。


「ひっ……」


 私は思わず外に飛び出す。

 全身ヘビでできた化け物がいた。

 そしてアパートのゴミ捨て場に追い詰められた少女が1人。


「子供といえど用者はしない。貴様のスネを!」


 がぶっ。 がぶっ。


 化け物は左腕のヘビで少女の左足首を、右腕のヘビで膝を咥える。


「やっ……」


 バキッという音。少女の骨の砕ける音。

 怪物は少女のスネを両手で固く咥えたまま引っ張り出した。

 同時に残された膝と足首から大量の血しぶきが勢いよく放たれた。


 少女は意識を失っていた。


「がじがじ。うひょー! そこそこ金のある家のスネだな。旨過ぎるっ!」


 化け物は少女から噛み千切ったスネを美味しそうにむさぼる。



「うぷっ……」


 残酷な光景を目にした私は思わず喉から込み上げてきた嘔吐物をその場にこぼす。

 服に大量にかかってしまった。


「アサ……」


 マストさんが心配そうな目で私を見ていた。


「……あいつを殺せば、終わるの?」


「君の力ならそれができる。しかし……」


 私だって死にたくはないけど。

 世界を救うとかもよくわからないけど。


「あいつだけは生きてちゃいけない……。私にゲロ吐かせた罪は、この地球より重いんだから!!」


 私は啖呵を切った。


「そ、そうか。うん……」


 光の神様は引き気味にうなずいた。


「なんにせよ決意は堅いようだな。今こそ君の力を引き出そう」


 マストさんの両手から緑の光が放たれて私の身体をつつみこむ。


「こ、これどうなるの!?」


「5時間もすれば君の光が活性化して」


「そんなに待てるかあああああ!」


 私は光の中から飛びだした。


「な、なにっ! アサ、その光を自力で!」


 そしてそのまま化け物の元へ走り、そのまま拳を叩きつけた。


 ブンッ!!

 その瞬間私のおでこに光が走る。


「ブウヮアア! い、痛い! 血が!」


 化け物は自らの真っ赤な血を見てうろたえる。


「こ、この脛喰い様に傷を負わすとは何者だ!」


 脛喰いは私の方を振り向く。


「その宝石は光の神の……!」


「宝石!?」


 脛喰いの言葉に反応してマストさんも私の顔を見た。


「……あの短時間で石を出したか! 緑は安寧を示す色! そして自然の恵みの色!」


 私は脛喰いの両腕を掴んでギューっと固結びにする。


「やめろほどけ苦しい! それが光の使者のすることかっ!」


「うるさい! ゲロ吐いた私の方が苦しかった!」


 私はそのまま思いっきり腕を引っ張る。


「ぐぅ、痛いっ、千切れる千切れっ……」


 ミチミチという音がして脛喰いの両肩が裂ける。


「ギィヤーーー!! 脛喰い様の神聖な腕をぉっ!!」


 よしっ! こんどはシッポ!

 私は脛喰いのシッポをつかんで伸ばす。


「な、なにをする気だ!」


 ゴン!

 抵抗する脛喰いの後頭部を右手で1発ブン殴る。


 そして伸ばしたシッポをそのまま脛喰いの口に入れた。


「んー、んー! んぐーっ……!」


「吐く苦しみを味わって!」


 私は脛喰いの口にさっき引き千切った腕を詰め込む。


 まだスペースに余裕がある。

 ちょうどここはゴミ置き場だね。

 私は近くにあった袋を開けて中身をザザーっと入れた。


「むっ、むうっ、むーっ!」


 脛喰いはわめいて暴れようと肩をゆらすけど何もできない。

 まだ両腕がある気でいるみたい。


「アサ! もう気が済んだだろう! 脛喰いを浄化するんだ!」


 マストさんの声に気が付くとさすがにやり過ぎてたことに気づいた。

 どっちが悪役か分かんないね。


「浄化ってー?」


「その額の石から光を出し脛喰いを封じ込めろ!」


「おっけー!」


 ……ってどうやってやるの。

 まあここは勘で!


「浄化ビーム!」


 あっ出た。普通に。


「ーーーーっ!!」


 脛喰いの身体から赤い煙が抜けて、中から中年の男の人が現れた。


「あれ……? 俺、いったい……」


 男の人は辺りを見渡す。


「な、なんだこの地獄絵図は! ひぃ~!」


 叫んで逃げるように走っていった。



 なにこれ? 元は人間だったってこと?


「信じられん。眷属が元の人間に戻るとは」


「どういうことですか?」


「闇の眷属にされた人間は闇の力に蝕まれ原型を保てないはずだ。アサの浄化能力の高さゆえか、あるいは眷属にされてから数十分も経っていないのか。だとしたら闇の神は極近くに……」


 マストさんが考え込む。


「被害に遭った人たちはどうなるんですか? 一生スネを取られたまま?」


「脛喰いを浄化したんだ。一晩経てばすべて元に戻る。まるで悪夢を見ていたように」


「でもきっとみんなウマシカになっちゃうよ……可哀想」


「ウマシカ……トラウマのことだな。心配するな。夢と同じだ。すぐに記憶から抜け落ちる」


 よく解らないけどよかった。


「アサ。額をよく見せてくれ」


 マストさんが向き直る。

 ま、まさかキスシーン!?

 早すぎるよ、だってほら私たち出会って日も薄いし……。


 私は覚悟を決めて目をつむった。


 彼の顔が私のおでこに近づくのを感じる。

 どうしよう今日はおでこにリップ塗ってないよ!

 変に思われないかなあ……?


「……これは、エメラルドか」


 キスじゃなかった。恥ずかしい。

 私は目を開ける。


「エメラルド?」


「いや……いい宝石だな」


「……? ありがとうございます」


 とりあえず細かいことは家でゆっくり聞こう。

 と思って後ろを振り返る。


 ……うん、道路からアパートまで血だらけのままなんだけど、これ本当に明日には全部元に戻ってるんだよね?

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