ダイヤの第4話こんなやつ?
ダイヤの代用はこんなやつ?
……永遠にも感じられた苦痛はようやく治まってきた。
時計を見る。実際には5時間程度しか経っていない。
額を手で押さえると、なにかゴツゴツしたものがあることに気づく。
俺の足元に転がっている闇の神の額に付いている宝石と同じもののようだ。
つまり……俺は闇の神になったのか?
それとも神とはまた別の……。
全てはデスナに聞けば解るのだろう。
こうして改めて見ると美人ではあるな。
服がはだけていて目のやり場に困る。
こいつのためではなく俺自身のために服を直してやろうとしたところ、運悪くちょうど服に手をかけたところでデスナは目を醒ました。
「……今日あんなに搾ってあげたのに、まだする気?」
「違うって」
デスナはなぜか俺の下腹部を見て話す。
「はぁー……。本当に興味ないのね。まあいいけど。今の私じゃ人っこ一人服従させるのもムリだって判ったし」
デスナは残念そうに顔を上げる。
その直後、素っ頓狂な声を漏らした。
「えっ!? やだウソ! 石が出てるじゃない! ってことは……」
“石”とは額の宝石のことだろうか。
「ダイヤ、命令よ! 私の[自主規制]を舐めなさい!」
BANされてえのかこの作者は。
「……嫌だ」
当然俺は断る。
自分の[ピー]が[検閲]されていた[自主規制]を[不適切な表現]しろなんて例え10億円積まれても無理だ。
「あれぇ? 眷属にはなってないのね……力を与えちゃっただけかあ」
「デスナ、俺に何をした。この石はなんだ!」
俺はデスナに詰め寄る。
デスナは俺の額をジッと見つめた。
「レッドダイヤ! あなたにピッタリの宝石ね! できたてでゴツゴツしてるけど私がきれいにカットしてあげる。ブリリアントでいいかしら?」
デスナは俺の疑問には答えず1人で盛り上がっている。
「この宝石はなんなのか聞いてるんだ!」
「私の記憶も与えられなかったんだ? じゃあ面倒だけど説明してあげる。それはあなたの持つ闇のエネルギーの結晶体! 心と現実をつなぐ触媒! そしてあなたの命そのものよ!」
このちっぽけな宝石が俺の命?
「じゃあ……これを割ったら俺は?」
「まあ可愛い。自分の死の心配?]
「まさか」
俺は死ぬことは別に恐れていない。
むしろ生きるのも死ぬのも面倒という漠然とした感覚がある。
今はただ知っておきたいのだ。死の意味を。
「人間ってね、心臓が止まっても脳味噌が止まっても死ぬとは限らないの。……まあだいたいは死ぬけどね。同じことだと思って」
「つまり割れたらだいたい死ぬんだな?」
「割れるもんなら割ってみなさい。あなたの濃ゆい闇の塊であるそのレッドダイヤを壊せる存在は世界に1人しかいない。あなたを殺したいなら宝石を狙うよりも下の人間を狙った方がずっと楽だもん」
下の人間とかさ○なクンみたいな言い方をするなと。
壊せる存在がいるというのは脅しのつもりなのか。
「……ダイヤは嫌いだな」
「どっちの意味で? それとも両方?」
「全て。俺が世界で1番嫌いな人間が俺によこした名前だ。綺麗なようで実際には炭素の塊に過ぎないんだ」
それがまるで俺自身のことを指しているようで気に入らない。
「でもただのダイヤじゃなくて私のと同じ赤よ! 赤は危険を示す信号! 生命散りゆく秋の色♪」
「……秋は命の散る季節じゃない! 果物は実り生き物たちは冬への準備をしだす。恵みと巡りの季節だ!」
俺は思わず声を荒げた。
もっとも俺は秋が好きというほどでもないが。
闇のとはいえ仮にも神がその程度の認識では困る。
「あぁ! またぶり返す! 闇を愛し人間を嫌うあなたがどうして自然なんてどうでもいいものにうつつを抜かすかなあ!」
ドンッ!!
またも隣人が壁を叩く。
俺たちはいつの間にか声を大きくしていたようだ。
「うるさい!!」
俺は壁を思いっきり蹴り返した。
壁にわずかにヒビが入る。
大家さんにバレたら大目玉だが、それを気にする心の余裕は今はなかった。
気が付くと俺の額のレッドダイヤからなにかがこぼれ落ちていた。
赤い宝石のかけらだった。
まさか割れてしまったのか?
「すごい……! ダイヤの闇が増幅して肥大化した結晶体が分離して外に出てきたんだ!」
「……俺は死なないのか?」
「この宝石はデストロイジェム。あなたの眷属を作り出すもの」
「俺の眷属? それはいったい……」
とそこへガンガンと玄関のドアを叩く音がする。
「紅葉ぁ! 出てこい! うるせえんだよ!」
隣人の田山さん。直接苦情を言いに来たのか。
顔は見たことないが……。
前に居留守を使われたんだ。居留守返しで行こう。
「なにしてるんです田山さん! ご迷惑でしょう!」
「げっ。大家さん!」
「それよりも田山さん。半年分の家賃がまだ支払われてておりませんね? 私から逃げてたみたいですけど今度こそ出て行ってもらいますからね!」
「そ、そんな……大家さァん!」
修羅場だ。
大家さんが通りかかったらしい。
「ウウウ……俺、親が死んで仕送りもなくなって……ここを追い出されてどうやって生きていけって言うんですか!」
「んなこと知りませんよ。警察にも連絡しますからね!」
大家さんが去りドアの外からは中年男性のすすり泣く声が聞こえる。
すごいところに立ち会ってしまったな。
「ね、試しに眷属作ってみない? あの人で」
邪神がまるで邪神のような提案をしてくる。
「田山さんはどうなるんだ?」
「消えちゃう」
よしやろう。即決だ。
なんらかの犯罪にあたるのだろうが今は抵抗がない。
玄関を開けると色白で小太りの男が床に突っ伏して泣いていた。
「この歳で親の仕送り頼りで引きこもってたわけか。死んでもいい人間……。どうすればいい?」
「デストロイジェムを触れて。服越しでもいいから」
俺は宝石のかけらを田山の背につけた。
デストロイジェムは水の中に落ちたかのごとく田山さんの身体に吸い込まれていく。
そして田山さんの身体は赤い煙につつまれた。
「よく見てて。私はこれを地球単位で起こしたいの」
「悪夢だな」
「そうナイトメア!」
赤い煙は1分ほどで中の人間に吸い込まれ消えた。
カップ麺より手軽だ。
煙の中から現れたのは両腕がヘビで顔もヘビ、下半身もヘビで全身鱗のヘビ人間。
「私はダイヤ様の第一の眷属『脛喰い』! なにとぞお申し付けください」
デスナの下請けが俺で、俺の下請けがこいつ。
つまり孫請けにあたるのか。
「さあダイヤ。あなたの代わりにこいつに世界を滅ぼさせるの」
俺の代用?
こんなヘビ男に滅ぼされるほど世界はヤワじゃないと思うが……。
「……脛喰い。自由にしてていいよ」
「ふっふっふ。では仰せのままに。好きなように生きさせてもらいやしょう」
俺の命令を聞き、脛喰いは身体をくねらせてどこかへ行ってしまった。
「ちょっとダイヤ! なんで!」
「俺は世界を滅ぼしたくないって言ってるだろ? あいつが目障りだから追い払いたかっただけだ」
「そう……まあいいか。眷属はいくらでも作れるからね」
またキレたかと思いきや、デスナはすぐに笑顔になった。
「それよりそろそろ夕飯じゃない?」
デスナの感情の起伏が読めない。
人の感情を理解するのは俺の苦手とするところだが、デスナは表裏のない印象で話しやすかった。
人間に理解できる存在ではないのだろうが……。
「……食うか? 唐揚げ」
「もちろん!」
手伝わせるとするか。唐揚げ作り。
今日はいろいろありすぎた。
学校で配られた教科書に名前を書かないといけないし。
すべきことが終わったら早めに寝てしまおう。
そして夢ならば早く覚めてほしい。できれば明日までに。