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第14話に露骨な伏線

 ここはどこかの戦場だろうか。

 死屍累々、狼煙に硝煙に砂煙にこもごもの煙が立ち込める。

 俺はそこに横たわる一人の人間だった。


 そんな俺の顔を覗き込む者がいた。

 美形の二文字が似合う男。とても戦場のイメージとはかけ離れている。


 俺の手は彼の方へと吸い寄せられる。

 その手は白く華奢だった。


 彼は俺の手を両手で強く握りしめる。


「ダイアナ! ダイアナ! しっかりしろ!!」


 彼の悲痛な叫びが響く。

 俺はダイアナという名であるらしい。

 ……女性の名前?


「戦いは決した……。闇は闇へと還る。僕は勝ったんだ。それなのに、なぜこんなことに……」


 彼の涙が俺の身体にこぼれ落ちる。

 はっきり言って気持ち悪い。


「ああ……ダイアナ。解っていたのか。僕も君と同じ、力を使いすぎた。きっと神に選ばれた代償……」


 代償とはなんだ?

 俺の力とはいったい?


「せめて来世では共にあろう。我、アレキサンドロスと、汝、ダイアナは、輪廻の果てに再び巡り会わんことを」


 彼の顔が俺に近づく。

 待て待て待てキスするのかこれ。

 口の形が完全にキスなんだが。


 そもそも俺は男だぞ?

 BL? BLをお望みなのか?


 ちょっとま……。

 !!??!?!??!?!???!


(うわうわうわ長い長い長い息ができない苦しい離せ離せ離せ――)



~~~~~~~~~~~



「気持ち悪いっ!」


 俺は起き上がりキスの主をどかす。


「キャッ!」


 えーっと……?

 目の前にいたのは三楓さんだった。


「起きたっ。よ、よかったぁ……」


 ああ……思い出した。

 俺は自分の身体にデストロイジェムを取り込んでそれで……なんで俺はそんなことをしたんだ?

 取り込んだ者は命を落とす危険な代物だと知っていたはずなのに。


 しかし俺は現に生きている。俺のアパートの隣人もそうだ。

 俺が生きているのはつまり……。


「紅葉くん大丈夫?どこか痛くしてない?」


 彼女の仕業だろう。額に緑色の宝石が見える。

 しまい忘れているようだ。


「……ああ、大丈夫だよ」


 辺りを見回す。すでに夕方になっていた。

 ここは……原型はほとんどないが学校らしい。


 俺がやったのだろう。

 おそらく裏の木々、飼われていた生き物も。

 くそっ!


 俺は地面に拳をついた。

 人間以外の自然を傷つけるのは本末転倒もいいところだ。


「ほ、本当に大丈夫?」


「ああ、うん。なにがあったんだ?」


 俺は三楓さんに状況を訊いた。


「ええっと、その……。わ、私にも全然わかんないっていうかさ」


「……俺のせいなのかな」


 自虐的につぶやくと、三楓さんは首をブンブン振って否定してくる。


「紅葉くんのせいじゃないよ! 紅葉くんは悪いやつのせいでおかしくなってただけだもん!」


 その悪いやつというのも俺なんだよな。


「……三楓さん、なにがあったか知ってるじゃん」


「あっ……」


 彼女が天然でよかった。

 天然由来の成分に感謝しよう。


「お願い紅葉くん! 今の話は内密に……って、あれ? この会話も夢になって忘れちゃうんだっけ?」


 彼女は秘密がバレそうになって慌て始める。

 事情をある程度知っている身からするとつい説明したくなってしまうが我慢だ。


「三楓さん、あの……」


「そ、それじゃあね紅葉くん!」


 三楓さんが選んだのはこの場からの逃走だった。

 彼女にしては賢明な判断かもしれない。このまま誤魔化そうとすれば確実にボロを出す。


 そのまま走り去っていなくなるかと思いきや、クルリとこちらを振り返る。


「また明日、一緒に学校行こーね!」


 そう叫んで再び走り去る彼女の額の宝石は、街灯に照らされて一瞬赤く光って見えた。



 帰路に着く。

 玄関のドアを開けると、いきなりエプロン姿のデスナが抱きついてきた。


「むぐっ!」


 俺の顔面が胸に圧しつけられる。


「おかえりなさい……っ!」


「むぐっ。ちょっ、離れろ!」


 俺はデスナの身体を引きはがそうとするが思いのほか力が強い。腐っても神だ。


「よかった……ダイヤ……! よかった……!」


 こいつ、まさか泣いているのか?

 俺ごときのために?


 俺はもう一度肩に力を入れると、今度はあっさりとデスナを振りほどけた。


「負けて帰ってきたんだぞ?」


「いいの! あんたが負けたことも、私を鹿児島まで吹っ飛ばしてくれたことも、全部水に流してあげる! あんたさえ戻ってくればいくらでも世界を闇につつむ方法はあるもの!」


 まあ、そんなことだろうとは思った。

 ……ちょっと待てよ?


「鹿児島まで行ってきたのか?」


「ええ、周りにさつま揚げがいっぱいあったわ」


「……そうか」


 まともにツッコむのも馬鹿らしい。さつま揚げ工場だろそこ。


「それより早くご飯にしましょ!」


「なにか作ってくれたのか?」


「カレールーをずっとかじってた!」


 へえ……。

 俺は正直お腹がすいていないし疲れている。


「今日の夕飯は無し」


「あら残念。まだ私腹ペコなのに」


「人間でも食べたらどうだ?」


「ブブー。私はカニバりません。性的な意味なら大歓迎!」


 ときどき作者が邪神とサキュバスを混同していないか心配になる。


 俺はさっさと明日の準備をしようとして、カバンもなにもかも学校に置いてきたことに気づいた。学校と共に潰してしまったのだろう。

 明日になればこれも戻ってくるはずだ。


 特に今この場にスマホがないのは痛い。

 ネットで調べたいものがあるんだがな。


 ……エッチなことじゃないぞ? 断じて。

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