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こんてぃにゅー

作者: かき氷

 朝、少年が目を覚ますと、あいつは冷たくなっていた。


 最初は、何が起きたのかわからなくて、ただ呆然と眺めていた。次に、恐る恐る、あいつをやさしく撫でてみた。そっと触れる手、肌にあいつの感触を感じた。でも、

 固かった。

 冷たかった。

 やさしく、あいつを抱きあげてやった。それでも、あいつはまぶたを閉ざしたまま、動こうとはしなかった。

 少年はやっと理解した。あいつの額を愛おしむようにやさしく撫でてやる。

 死んでしまったんだ。

 少年は幼いながらにそれを理解した。

 そして、泣き出した。


 午後、家の裏手にあいつのお墓を作ってやった。涙はもう止まっていた。けれども、頭の中のもやもやとした気持ちは治まらなかった。

 あいつが息を引き取った事に気づいた直後は、ひたすらに悲しかった。でも今は、ひたすらにむなしかった。この前まで元気に走り回っていたのに、あいつは今、土の中で眠っている。

 少年は小さな頭で考えた。生きるという事について、死ぬという事について。

 命はいつか終わる。

 そこに例外はない。今は元気だとしても、父や母もいつかは、死んでいなくなってしまう。そして自分も、いつかは死んでしまう。

 怖かった、置いていかれるのが。怖かった、いなくなってしまうのが。怖かった、死ぬという事が。

 なぜ生き物は死んでしまうのか、少年は母に尋ねた。

 ふるえる手、怯えきった表情。死という気持ちの悪いものに初めて触れた少年。

 母はやさしく微笑みこう答えた。

「生きているものはいつかは死んでしまう。これは避ける事ができない運命なの。でもね、だからいのちっていうのは生きている間に、後悔しないようにせいいっぱい生きて、愛し合って、色々な思い出を作って、今日を大切にして生きていくの」

 静かに、母の言葉に耳を傾けた。けれど、その言葉の意味は少年にはまだ難しすぎてよくわからなかった。

 母が少年をやさしく抱きしめた。髪が少年の顔にかかる。母の髪はあったかい良い匂いがした。



 ~5 years later~



「ショーウ!」

 遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえる。声には聞き覚えがあった。同じ中学校に通っている幼なじみのソラだ。

 俺は、あの頃よりも――少しだけ大人に近づいた。


「でさーそのこちょ~ひどいんだ!! 私が少し漢字を読み違えただけなのに馬鹿馬鹿言ってきてさぁ」

「へえっそれで何をどう間違えたんだ?」

硝子ガラス餃子ギョウザって読んだ」

「なるほどそれは馬鹿だ」

 顔をにやにやさせながら言ってやる。ソラがふくれっ面でぷいっとそっぽを向いた。

「あ~はいはい、どうせ私は漢字も読めない馬鹿な女の子ですよ~だ!」

 そう言うと、彼女は一人拗ね出した。


 ――母が言った言葉の意味、あの時は全くわからなかった。

 けれど、最近になって少しだけわかってきた気がする。

 命は儚い。だからこそ、その短い一生を後悔しないよう、懸命に生き抜いてゆく。

 笑い抜く、愛し抜く、頑張り抜く、守り抜く。たぶんあいつがいてくれたから、気づく事ができたんだと思う。

 世界は儚く、そしてこんなにも輝いているという事に。

「何よ」

 気付くと、いつの間にかソラの顔をじっと眺めていた。

「何も」

「何も、無いなんて事、ないでしょ」 

「別に、ソラの顔に見とれてただけだよ」

「……変なショウ」


 それからしばらく、桜並木を二人で歩いたあと、俺たちはそれぞれの家の帰路へと別れた。

「ばいばい、ショウ。また明日!」

「おう、また明日な! ソラ」

 互いの分かれ道に差し掛かる頃には、彼女の機嫌はすっかり良くなっていた。いつもながら、快活でころころと変わるそのさまは、いつ見ていても飽きる事がない。思い返すとソラからも、多くの事を学んだ気がする。


 家に着いて玄関の扉を開ける。

「ただいまー」

 中に足を踏み入れる。すると――。


『みゃ~!!』


 あいつの、忘れ形見達の声が、俺を出迎えてくれた……。

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