真実
「ねぇ、サンタさんは本当にいるの?」
「流れ星が消える前に三回お願い事を言えたら叶うの?」
「天使さんは本当に天国に住んでいるの?」
子供たちが皆、輝いた目をして問いかけてくる。そして俺はこう答える。
「あぁ、君がいい子にしていたら今年のクリスマスにはきっと君の枕元にプレゼントを置いてくれるさ。」
「叶うさ。でも流れ星は早いぞぉ。流れ星が消えるまでに言えるかなぁ?」
「もちろん、神様はいるぞ。空の上からずっと僕達人間のことを見守ってくれているのさ。」
俺は笑顔で一人一人にそう答える。この子達はまだ夢を見てもいい年頃だろう?そう自分に言い聞かせながら。
彼らは皆、何かしらの理由でこの院に集まっている。
事故で親を亡くした子や、親に捨てられた子、経済的に親と一緒に住めない子など、様々な背景を持っている。
初めて出会った頃は、みんな虚な目をしていた。その目には何が映っているのか、全く分からなかった。彼らが感じている孤独は俺みたいなやつが共感できるようなもんじゃないだろう。そう分かっていた。だが、毎日一緒に過ごしていく中で彼らはやがて目に輝きを取り戻して、今では皆すっかり元気になった。
「ねぇ、先生。私のお母さんやお父さんはどこに行ったの?」
「お星様になって、空から君のことをずっと見守っているんだよ。」
「お星様なんていっぱいあって、どれが誰だかわからないわ。」
「お母さんやお父さんは君のことばかり見ているから大丈夫。いつか分かる日が来るさ。」
こんな具合で、俺は毎日優しい嘘をつき続ける。
「さて、買い物に行ってくるよ。」
「先生、行ってらっしゃい!」
さてさて、今夜は何を作ろうか。そういえば、来週はあの子の誕生日だったな。ケーキも予約して帰らないとな。
それにしても、とても夕焼けが綺麗だ。沈みゆく太陽は残念ながらこの街では見れないけれど、空に浮かぶ雲が真っ赤に焼けて、深い青空に相反するようにそこだけ赤く染まっている。
こんな日常が毎日続けばいいのにな…。
忙しい喧騒の中でそんなことを思いながら、空を見上げた。赤黒く焼けた空が、異常なほどに脳裏に焼き付いた。
近くで、踏切が閉まることを知らせるサイレンが大きく頭の中に響き渡っていた。
「ハッ。」
目を覚ますと、そこは色々な境目が曖昧になっている真っ白な空間だった。部屋中を見渡すと太陽の光が雪に反射したみたいに光っていて、目がチカチカした。
「ここは、どこだろう。確か俺は…。」
「はい、次の人ー。はい、そこの人。君の番だよ。」
「あ、あの。すみません。ここはどこですか。」
「ここは審判までの待合部屋だよ。今日は死んだ人が少なかったからね。よかったね、並んでなくて。」
彼はすぐには理解できなかった。死んだ人が少なかった?審判?
「さ、早く。」
「待って。困ります。まだ僕は死ぬわけにはいかない。」
「あぁ、君くらいの年齢だとそう言う人が多いね。でも、君の死はもう決まったことだから。はい、どうぞ。」
促されるままに彼は審判の部屋へと連れ込まれた。部屋に入ると、とても大きな巨人がとても大きな机に肘をつきながら、大きなペンで何かを書いていた。
「はい、えー。どれどれ。あー、さっき交通事故で死んだのね。じゃあ、君の審判を今からしていくから…。」
「す、すみません。僕はまだ死ぬわけには…。」
「大丈夫。すぐに受け入れるようになるから。今はまだ気が動転しているだけさ。さっきの人間も舌を抜いたらすぐに黙ったよ。」
彼は自分の顔から血の気が引いていくのが分かった。思い出していたのだ。子供たちについていた、優しい嘘のことを。
「あの、待ってください。あれは子供たちのために…。」
「ん?んー。おっ、珍しいじゃないか、人間なのに嘘をついたことがないなんて。」
「え?」
そして、巨人がこう続けた。
「さて、どうするか決めてもらおうか。天国に行って天使になるか、星になって愛する人を見守るか。それともサンタになって年に一度、子供たちに夢を与えるのか…。」