60話 装備品5
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「ちなみにドーラさんが区画整理のときに場所を移動しなかった理由ってなんですか?」
「なんだったかしらねぇ。もう何年も前の話だしね。なんか鍛冶師の仲間たちと揉めてたそうだけど、詳しい話はわからないわ」
冒険者ギルドの受付のおばちゃんからひと通り情報収集が出来たので、お礼を告げて私は冒険者ギルドを後にした。
さっそく区画整理否定派の意見を聞こうと思ったけど、知らない人に声をかけるのは勇気がいる。ドーラさんのお店に通いながら、徐々に調べてみようかな。
それからの日々は、山脈都市マトンの周辺で魔物討伐をしたり、街なかを散策したり、時にはアルトさんと一緒に出掛けたりして過ごした。事情聴取で冒険者ギルドの職員に呼び出しを食らうこともあった。
もちろんドーラさんのお店には基本的に毎日顔を出して、他愛のない会話をかわした。防具は相変わらず作ってくれないけど、だいぶ仲良くなれたと思う。
そんな日々の中で、ドーラさんがあの場所を動かなかった理由が、なんとなくだがわかってきた。
区画整理が実施されるにあたり、様々な人たちが立ち退きを要求されたのだが、その際に鍛冶屋を1箇所に集める話が持ち上がった。鍛冶屋が1箇所に集まると、流通面が整理されるのはもちろんのこと、この都市の特色になるからだ。
ただ当時はすべてのことを一気に進めていたために、今いる場所から立ち退き後には、一時的に鍛冶屋が営業していない期間が出来てしまうことがわかった。
ドーラさんは装備品の供給が滞ると、結果として街が危険にさらされることを強く訴えたそうだ。
そのため最初は鍛冶屋の人たちも移動を渋っていたのだが、街を上げてのプロジェクトであり、謝礼金もそれなりの額が提示されたため、ほとんどの鍛冶師たちが新しい場所へと移動していったのだ。
ドーラさんの訴えに鍛冶仲間たちは誰も耳を傾けてくれなくなったそうだ。そうなると実害が出て困るのは冒険者や衛兵の人たちだ。
ドーラさんは最後まで移動を拒み、困っている冒険者や衛兵たちを助けようと、必死になって装備品を供給したのだ。
そんな忙しい日々が過ぎていく中、ある日を境にドーラさんのお店にくる客足がぱったり途絶えたそうだ。
理由は明らかだった。
中心部に鍛冶屋通りが完成したからだ。
今まではお店がここしか空いていなかったので、客数もかなり多くなり、ドーラさんがどんなに頑張って作ってもすべての需要を満たすことは出来なかった。そのためなかなか装備品が手に入らなかった人たちもそれなりに多く、彼らは我先にと鍛冶屋通りへと流れていったのだ。
たくさんのお客が流れてきた鍛冶屋通りは、鍛冶屋がたくさんあるお陰でどうにか捌き切ることが出来、それが呼び水となってさらなる集客を成し遂げたのだ。
鍛冶屋通りが上手く機能し始めると、素材を納品する業者もわざわざ区画の隙間に行くのは非効率ということで、鍛冶屋通りのお店との取引をメインに行うようになっていった。そして次第にドーラさんのお店は廃れていったのだ。
その後、ドーラさんが鍛冶屋通りに移動を考えたのかは定かではないが、そこに空き店舗はすでになく、移動はかなわない状況だったらしい。
これがドーラさんのお店に通う冒険者に勇気を出して話かけることで知り得た内容だった。
なんとも不憫な話だ。
私はドーラさんのお店に通い続けて装備品を作ってもらおうと決心した。
そんなわけで、さっそくドーラさんのお店へ向かった。
「ドーラさん、また来ちゃいました」
「またお前か。ほら帰った帰った」
ドーラさんは冷たい対応だが、事情を知ったあとだと、これをただのツンデレに感じてしまうのは不思議な現象だ。
・・・とはいえ私におっさんのツンデレの趣味はないことだけは、はっきりと伝えておきたい。




