1話 謎の声
「あー、おもしろかった!」
私が1番の至福に感じる時間がまたひとつ区切りを迎えた。テーブルに置いてあるコーヒーを口に含み、今までの内容を思い出そうと目を閉じた。
早川傑、35歳、会社員。今日も残業続きで疲れた体にムチを打ち、楽しみにしていた異世界小説のクライマックスを読み進め、今日ようやく最終話を迎えた。
「異世界で無双するのって定番だけど、やっぱり憧れるよな~」
今回の異世界転生小説の内容は定番ものだけど、強いスキルを身につけて、安全マージンを取りつつも強敵を倒し無双する話。そんな展開に憬れる。
異世界と言えど、危険と隣り合わせで冒険するよりは、強いスキルで安全に攻略したい。私は石橋を叩いて渡りたい派だ。
今までに200作品以上を読み終えたが、今回の小説はその中でもよくある設定であった。
「また新しい作品を探さないとな」
いつか自分も異世界に行けたらいいなと思いつつも、そんなことはあり得ないと否定する自分がいる。異世界に行けるとしたら、それこそ定番ものである。
「明日も早いからもう寝ないと」
コーヒーを飲んだものの、ベッドに潜り込み目を閉じる。明日も朝から仕事なのだ。無理やりにでも、私は眠りについたのだった。
・・・
・・・
『コンテニューしますか?』
・・・
・・・
『NEW GAME』
・・・
・・・
『YES? NO?』
・・・
・・・
また始まった。夢の中まで異世界脳になったのだろうか。まぁ寝る前にコーヒーを飲んだせいか、半覚醒状態で夢でも見ているのだろう。
「いつもどおり、NOで」
私は石橋を叩いて渡りたい派である。夢であっても、訳がわからない質問には、断固として拒否である。
・・・
・・・
・・・
『コンテニューしませんか?』
「NOで」
・・・
・・・
・・・
『コンテニューしてくれませんか?』
「NOで」
・・・
・・・
・・・
『どうすればコンテニューしてくれますか?(泣)』
・・・
・・・
・・・
異世界転生小説を150作品ぐらい読み終わったあとからだろうか。夢の中で、突然の問いかけが始まった。
最終話を読み終え、眠りについたと思ったら決まってこの問いかけだ。今までは変わりばえのしない『コンテニューしますか?』だったのだが、今回ようやく新たな言葉が聞こえてきた。とりあえず、質問してみよう。
「コンテニューとは、どういう意味でしょうか?」
『地球とは別の異世界へ転生するということです』
・・・これまた定番ものの展開であった。