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Dragon Fate  作者: 朧月りんね
3/3

竜狩りの話(3)

続きをどうぞ。

胸元に手を当てると、手にガラス片が刺さった。


「…なんだ…」


胸ポケットを漁ると割れたポーションの瓶に赤黒い液体が少量入っていた。


これはいったい何か、すぐに答えはわかった。それは龍の血だ。あの忌まわしき龍のな。


そんなおり、ふとある記憶が頭によぎった。一度本部から竜の生態書が盗まれたと依頼を受け、俺は見てしまった。古龍の血が(もたら)す人知を超えし力を。


それは、禁断の術。龍から得た血を己の血に流し込むことで、龍との血胤(けついん)を結ぶ。

龍の血胤(けついん)を受け入れしものは、不死の力を手に入れ、いずれ龍を凌ぐ力を手にする……

それは世界終末への第一歩だ……


それは生態書などではなく、禁書だ。本部はそんな代物まで扱っていた。


生態書改め禁書を渡す時こんな事を言われた。

…中は見てないだろうな?なら良い、この世には知らなくていい事がある。それだけ肝に銘じ竜狩りを続けたまえ……と。

龍の血胤(けついん)とはひた隠しにしなければならないほどの代物だという事、そんなこと知った事ではない。あの糞野郎を殺せるのなら、禁だって犯そう。


刃を肌に当て軽く切りつける。左腕から血が流れ、その傷に先程の龍の血を流し、呪文を黙読する。その言葉は決して口にしてはならず、発声もできない。古き時代の失われし言葉、今叶えよう。血の契りを……


儀式が済むと体に異変が起こった。俺の体は龍の血に反発し、激痛を生み出す。龍の血が俺の血と反発しあい全身を駆け巡る。骨は破壊と再生を繰り返し、筋肉は異常なまでの膨張と伸縮を繰り返しす。まるで皮を突き破りそうな勢いだった。


それでも奴への憎しみを糧に俺は痛みを乗り越えた。


すると全身にまわった激痛は消え、今までボヤけて殆ど見えていなかった右目の視力が回復し、完全に見えるまでに回復した。


傷を負ってから二十数年が経過したがあっという間に治るこの力、ひた隠しにするのもわかる気がした。


この力で必ず奴に復讐を果たすと俺は誓った。


それから間もなく、異変を嗅ぎつけた衛兵達がこの悲惨な現場を目の当たりにした。


知り合いからは手向けの言葉を投げかけられたりはしたが、素っ気ない対応て返した。


それから数日がたち、俺がこの街から旅立とうしたその時、下宿先の宿で同僚たちや新兵達に囲まれる。


「どこに行くつもりだ?」


「…少し旅に出ようと思ってな…」


「何処に行くか詳しく教えてもらおうか?」


「…おいおい、何故そこまでして俺の動向を探る?」


「済まないな…こっちも仕事なんだ。」


俺を囲む一同から冷たい視線を向けられた。すぐに察したよ、禁忌がバレたのだと。

俺は剣の鞘で一同をなぎ払い、逃亡する。


「クソがァ!逃げやがったな、追え追えェ!」


街の兵士総出で俺を追いかけ回した。睨んだとおり捕まれば死罪は免れないだろうな…そう確信し、路上を避け、屋根伝いに郊外を目指すが、屋根を飛び越える途中で急に体の力が抜けるがわかった。


毒だ、俺は何者かに毒を盛られた。しかし一体どこから落ち行くさ中に当たりを見回すと隣の屋根に吹き矢を構えた男がいた。


面の広い傘を被り、特徴とも言える迷彩服、暗部のものだ。


暗部が動くとなれば禁忌を冒したことが筒抜けのようだ。もう逃げ場はないこれは万事休すだな、そのまま意識を失い地面へと落下した。そして逢えなく捉えられ、竜門裁判へと掛けられた。


竜門裁判、それは竜狩りの掟に背きし者への処罰を与える裁判、しかし大抵は死罪が言い渡される。特に禁忌を冒したとなれば、死罪は確定、その他はあまり想像したくもない事が待っているだろう。


俺に課せられた刑は、幽閉の刑だ。全身を竜封じの鎖で縛られ、本部の地下にある結界を施された特殊な部屋で監禁され続けるという刑だ。一見ただ閉じ込められるだけにも思えるが、龍の血胤(けついん)を結んだ俺の肉体から生命エネルギーを徐々に吸い取り、それでも龍胤の効果で死ぬ事は許されず。


命尽きることなく力を奪われ続ける刑だ。


逃げようにも既に龍封じの鎖で力は出せず、地下牢へと搬送されている。その時、思わぬ自体が起こった。急に建物が音を立てながら揺れ始め、外からただならぬ悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ!?」


俺を搬送する衛兵達がざわつき出した。チャンスは今しかないと、何とか衛兵に体かまし、襲いかかった衛兵に鎖を絶たせた。


解き放たれた俺は衛兵素手でねじ伏せ、衛兵の剣を手にひとまず装備を取り返すべく、武器庫に向かった。


無事武器庫に到着し、装備を回収していると、武器庫の天井が崩れ、上部からあの龍が顔を覗かせた。


けたたましい咆哮と共に龍の口元に微かにエネルギーが蓄積するのが見えた。これはまずいとすぐさま避難する。


龍の口元から灰色のエネルギーが光線として吐き出された。その威力は煉瓦を軽く溶かし、直線的に放たれた方向の街に爆発を巻き起こした。


これがやつの怒りなのか、片目を失い荒れ狂う龍、このままではこの街は壊滅してしまう。いや既に壊滅していると言った方がいいか、街は爆発により炎上し、夜のはずなのに街は明るい。


俺を捉えた組織は後悔しただろうな、俺を捉えたことを、そんな事はどうでもいい、チャンスがあるなら生かすのが必定、俺は剣を構えた。


龍は早速刺突を繰り出した。しかしこの龍も学ばないやつだ、同じ攻撃が通じると思っているのか?刺突を剣でいなそうとすると、龍の尻尾は三又の槍と変わった。今までは一本槍の形状だったが少しは学習したようだ。


俺の剣は龍の三叉槍に絡め取られた。そして容赦なく腹部に突き刺さる。


龍は俺の死を確信し尻尾を引き抜くが、そうはいかない。すぐさま立ち上がる。


龍は面をくらったかのように驚いていた。そうだ、俺は龍の血を御した。お前を殺す為に人を辞めた。瓦礫に埋もれた武器庫の剣を手に持ち、第二回戦が始まる。


龍は相変らず尻尾を主体とした戦闘だが、二十年間の鍛えたこの剣裁きでは対処は容易だった。


ともあれ訓練用のこの剣では、まともに龍の攻撃に耐えられるはずもなく折られた。


しかしそれは考慮のうえだ。折れた剣はあくまで元の剣を取るまでの繋ぎ、そして見事獲物を取り返した。


龍は咆哮と共に尻尾を片刃剣似た形に変換し上部から振り下ろす。その攻撃を受け止め、ゆっくりと攻撃を流すと、ここぞと尻尾を切り伏せる。


龍の尻尾の一部を切り落とすことに成功した。しかしあくまで鋼質の外殻を剥がしたに過ぎない。


しばしの間龍との睨み合いが続くと、またも龍は尻尾を巻いて逃げていった。


俺は追いかけることもできず、ただ見ているだけだった。


それから龍の片刃剣状の外殻を手に取った。この素材なら今度こそあの龍に致命傷を与えられるはずだと思った。


すると空が明るくなってきた。夜が開けたのだ。裁判のおかげで正確な時間はわからなかったが…まぁ、それはいいとして、街は悲惨な状況だった。本部の協会は完全に倒壊している。街は殆どが復旧不可な域まで全損し、辺りには骸の山が転がっている。時折人体の燃える独特な臭いが鼻に着いた。


生存者は零。龍が暴れた事によりこの街は滅亡したのだ。たった一人俺と言う生き残りを残して、俺はひとまず鍛冶屋へ向かった。


鍛冶屋は半壊程度ですんでいたが、中にいた職人たちは恐らく龍の光線にの熱にやられたのだろう。体が溶けている。幸い火事場の炉は生きているようだ。


ならばこの龍の素材を溶かせるかと思ったが、炉の温度では溶かせなかった。


ならばこの街にな要はないと俺はあの龍を倒すための旅に出たのだ。


その過程で火山の深層部に住まう古き赤龍の体内にある炉心核を用いて、龍の片刃状の外殻とミスリル製の竜剣を合わせ、これまであまたの龍を葬ってきた龍狩りの長剣を生み出した。


そしていよいよ、この永き戦いの終止符を打つ時だ。あれから数百年、俺は明くる日も竜、龍を狩り続けてきた。それが俺の背負いし因果であり、運命なのだから…


数百年狩り続けても奴とは会うことはなかった。時に奴と同じ種を見つけたが、俺の追い求める奴では無い。


初めに飛龍が途絶えた。現世に生きる竜の中で個体数は断然おおいいはずが、同じくして悠久の時を生きる男により根絶やしにされた。そして次は古龍、本来不死である龍は同じく悠久の時を生きる。


本来死ぬ事は殆どない龍達に男は命を与えた。決して死なずの龍に死を与える力、それが龍の血胤(けついん)を結びしもの、個体数の少ない古龍も絶え、いよいよ残すは奴だけとなった。


そしていよいよ奴のお出ましだ。


奴はとぼとぼとゆっくりこちらに飛行してくる。俺が居るということも知らずに…


龍がゆっくりと翼を羽ばたかせこの塔の最上階の巣へ舞い降りた。


最後は卑怯な手は使うまい…剣を引き抜き、奴の視線に入るように近づく。


「やっと見つけたぞ、お前を探すのに数百年も経過()っちまった。誠に長かった…だが、それも今日で終わりだ!」


龍に剣先を向け宣戦布告を言い渡す。こちらを見た龍だったがすぐに興味がなさげにそっぽを向く。


「…ちっ!調子が狂うが、因縁はきっちりとはらさせてもらうぞ!」


先制攻撃で龍の背中に剣の一撃がヒットする。やはり数多もの龍を狩ってきたこの剣なら奴の装甲にも刃が通った。


しかし奴は攻撃されたと言うのに微塵も動きはしなかった。


「…お前…俺を小馬鹿にしているな?」


無抵抗な龍に何度も何度も剣で切りつける。しかし龍は微動だにしない。

それはおろか、遠くを見つめる目はどこか悲しさが伺える。


あんなに恨んでいた龍に哀れみの感情が間をさすが、今までの悲惨な光景を思い起こし怒りを掻き立てる。


「…何故だ、何故だ!何故攻撃してこない?…俺はお前に何もかも奪われた!その俺はお前たちの同胞を滅ぼしたァ!何故怒らない?何故憎まない?何故その悲しい眼差しを向ける?哀れみなんて必要ない!俺と戦えー!」


何度怒りの一撃を与えようと、龍は断固として攻撃の姿勢を見せなかった。前までの龍とは明らかに何かが違う。


外見は変わらない。一昔同じ種の龍を狩った事があったが、そいつは別個体だった。

左瞼に大きな傷、間違いないはずだ。確実にやつのはずなのに?


訳が分からない………


「…はぁ……はぁ……はぁ…」


度重なる攻撃を仕掛けようとも、何も仕掛けない龍にどんどん心がすり減るのを感じた。先に折れたの俺だった。


どんなに痛みや苦痛を与えようとも、やつの眼は変わらない。悲しき目をしている。それは無常を悟ったかのように、無抵抗の相手に切りかかる俺が外道である事を言わしめるかのように思える。


地面に四つん這う。相手にとって好機であるにも関わらず、何もしてこない。むしろ、龍は俺に自身の首を差し出した。


「…俺への侮辱か?」


自分の首を斬れと言わんばかりに首を近づける。こんな事をされても納得が行くはずもない。


「そんな事なまっぴらだ!戦いから逃げるのか?そんなに死に急ぐならいっその事戦え!」


感情が奮い立ち、剣を握る右手が地面から浮いた。その途端に龍は自身の首を剣に突き刺した。


「なんの真似だ!?」


俺の思考は理解不能だ。そこまで戦うことにこだわらないのか?前までの好戦的な龍とは全くかけ離れた展開になった。


龍の首元から大量の血が流れている。とめどなく流れる血を唖然と見つめるだけで、剣を抜く事は愚かその場から動くことも出来なかった。次第に血の流れが弱くなると、剣から自然に龍の首が抜け落ちる。


龍の巨体が地面に横転し、埃を辺りに撒き散らす。龍の眼は一度こちらを見たかに思えば、すぐさまその視線は日が差す方角へ向いていた。龍は何度となくあの日の彼方を見つめていた。


そして龍の眼がゆっくりと閉じていき、精魂が抜けるのが感じ取れた。


「………」


俺はもはや言葉すら出なかった。奴がなぜあのような行動を取ったのか、そして奴の死後、この胸には虚しさだけが残った。


不思議な事にさっきまで抱いていた復讐心や、達成感と言うものは湧き上がってこない。


生きる意味とも言えた復讐は、結果的に虚しさだけを残した。


奴が向けた悲しげな瞳。まさに俺は奴そのものなのかもしれない。全てが過ぎ去った今俺もまた、あの日の差す彼方を見つめていた。


「…綺麗だ…」


ふと自分の口から数百年ぶりにこのような言葉が飛び出し驚いた。


久しくこの様な感情を抱いた事はなかった。同時に、虚しさと言う奴がまるで今までの自身のようにも思えた。


そして、そんな永きに渡る旅路にいよいよ終わりがすぐそこまで迫って来た。


「グゥッ!」


急に胸が痛み出す。心臓が押しつぶされるような痛み。俺は思わず地面に膝を着いた。息を荒げ、体の至る所から汗が湯水のように湧き出る。


「はぁ……はぁ……はぁ」


それと同時に髪は色素が抜け落ち、艶の無い白髪へと変貌を遂げる。肌も似たようにシワが濃くなり皮膚が紙のようにペリペリと剥がれ落ちていくのが感じられた。



少しすると今度は視界までもぼやけてきた。だが、あの日の差す方角だけは明るい輝きを放っている事はわかった。


だとしても、龍胤(りゅういん)を解かれた俺はもう間もなく朽ちる。


「…復讐は何も生まない…復讐は……人を殺す。加害者だけでなく被害者までも……」


自分ですら何を血迷っているか、理解などできていなかった。それでも何か、何か答えにしたかったのだ。


あの龍もまた俺に復讐心を持ったはずだ。同胞を打たれ、体に傷を負った。そして最後の一体となって奴は戦う意志を放棄した。


俺が今まで成したことの否定、復讐への虚しさ?いや、違う……


「……破滅……」


ボロっと零れたその言葉に、全ての答えは詰まっていた。


最後の力を振り絞り剣を地面に突き立てた。最後は騎士らしく死のう。


消えゆく意識と言う灯火の中で最初に音が消え、最後に光も消える。


そしてついにその時が訪れた。人が死ぬ時、天使も死神も来やしない。来るのは静けさだけだ……

 最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

復讐の果てに残る物…主人公は理解したようですね。そして、彼の長きに渡った旅も終わりを迎えました。彼が安らかな眠りにつけることを願います。

 またどこかの作品でお会いしましょう…それでは。


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