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Dragon Fate  作者: 朧月りんね
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竜狩りの話(2)

続きです。

これが俺とやつとの初めての出会いだ。今思い返しても忌まわしき記憶だ。考えるだけで心臓が鍋で煮出された様にふつふつと怒りが沸いてくる。


それより奴はまだ現れないようだ。この地に降りたってはや3日はたったのだろうか、飢えという概念はもう俺には残ってはいないが、この満たされる事ない心を(うかがえ)えばひもじざが湧いてくる。


さて、奴が現れないとなれば過去を思い返すことが紛らわすのにうってつけだろう…


…それから俺は友の遺体を担ぎ泣く泣く拠点へと戻った。戻るや否や俺は尋問室へと押し付けられ、事の流れを話した。正直な話し俺は疲れていた。


まるで重りを全身に付けられたかのように体が重く、何もかも考えるのが嫌になった。


友を失った傷は相当大きかった。それでも非常な尋問は続いた。この事は上層部にも伝わり、俺には仲間殺しの虚偽がかけられた。


いったい誰が信じるのか、体に鋼を武装する龍の存在を、それが古龍と言う不確かな可能性を、約40日にも及ぶ裁判のすえ、称号の剥奪と当分の留置刑に処された。


牢屋の中でも俺は友を救えなかった無力さに嘆いた。


それから一月(ひとつき)がすぎた頃、釈放され再び竜狩りの部隊に派遣された。


その舞台はならず者を集めたかのような部隊だが、竜狩りの部隊では汚れ仕事や凶悪な龍の殲滅を目的とする言わば駒として扱われる部隊だ。


どの組織も腫れ物を扱う部署があるが、そんなもの非ではない。


常に命の危機に瀕する竜との戦い。災害を齎す龍がもし現れれば尖兵として出陣し命の灯火を散らすそんな部隊だ。


だが、その部隊であろうと俺には竜を狩ること以外出来なかった。


それから早くも20年がたった。俺は死ねずにいた。友の後を追いかけようにも、この体に備わった生存本能と言う安全装置(セーフティ)が死を(はば)む。


幾度となく死地を潜り抜けたが、未だ死ねずにいる。生きているのが辛いそれでも生き続け竜を狩り続けることが友への唯一の贖罪(しょくざい)なのだ。


もう二度と何かを失う哀しみは味わいたくない。誰かと関われば情が湧き、悲しみを育む。


俺は人との関係を断った。ただ孤高に竜を狩り続けることが自分を守る術であり、皆を守る術なのだと思い込んだ。


だが、そんな俺に興味を示す者が現れた。彼女の名はカルディナ、必要以上に俺にアプローチを掛けてくる厄介な女だ。


四十にもなろうと言う中年に嫌なほど言い寄ってくる変わり者だ。


彼女は俺に会う度こんな事を言ってきた。


「貴方は紫のヒヤシンス、その蕾は決して花が開くことはないわ。でもこのスイートピーの花を添えれば貴方の蕾は開花しきっと代われるはずよ。」


最初は意味がわからなかった。だが、何度も聞かされるうちに花言葉だと気が付き意味を調べたものだ。


つくづく思うよ。彼女は凄いってね、俺の内なる悲しみを共に乗り越えようと提案しているのだ。


今までそんな人は誰もいなかった。人とは誠に冷徹で冷たいものだと思っていた。人と人とは所詮は他人。我が身になれば切り捨てて当然の存在。


しかし彼女は違ったどんな人よりも綺麗で清らかな心を持っていた。悲しみに囚われた憐れな俺にわざわざ救いの手を差し伸べようとしたのだ。それも数回の話ではない、数年にも渡り俺を口説き倒した。


ここまで来たら俺もお手上げだ。彼女が一歩み出す勇気をくれたのなら、俺も進むしかない。


俺は友の死と悲しみを心に抱きながらも、彼女を迎え入れ、こんな俺でさえ、彼女との間に子を授かる事ができた。


あの日々は何もかもが充実していた。3歳になる娘と妻の為、街の人々のためにいっそう竜狩りに励んだ。


そしてついには正規部隊の一番隊隊長にまで任命される程に昇格を果たせた。それもこれも彼女の存在があったから成し得たのだ。


そんな充実した日々にも終わりが訪れた…


その日は竜退治が早く終わり、早々と家に帰宅する所だった。我が家は町外れの丘の上に点在している。


馬にまたがり早々に向かっていると、雲行きが怪しくなってきた。雲の流れなが早くなり特大の雨粒が郡を成して降り注ぐ、次第に雷までも落ち始め、脳裏に嫌な光景が蘇る。


久しく忘れていた友の死の光景、急に心臓が脈動を早め、嫌な予感という奴が脳内をよぎる。


「…そんな馬鹿な……」


全力で今の予感…妄想を否定し馬の速度をあげる。我が家に近づくにつれ、馬の足取りが重くなり、あと数百メートルのところで進行を拒んだ。


認めたくはないが何か不吉な事が起こっている。妻と娘の無事を強く祈りながらも足を進めた……


「………てめぇは、どこまで俺から大切なものを奪えば気がすむんだ!このド畜生がァ!」


再び煮えかる怒り、友を失い、失意を荒野を抜けた先に待つのはまたも失意、今度ばかりはやつとの因縁に終止符を打ってやろうと怒りのパワーを注ぎ込む。


妻子ともに友と同じく腹を一突きされ既に死んでいる。この光景を目の当たりにして怒らない奴はいない。


「…お前なんかに!お前なんかにぃ!俺の全てを奪って、何が楽しいと言うんだー!」


抜剣した長剣をやたらめったら龍に切りつけた。しかし傷はまともにつきもしない。


ただ剣の切れ味を消耗するだけ、すると死角から龍の尻尾のなぎ払いに気がつくことができず、もろに一撃を受けてしまう。


胴に重たい衝撃が走り後方へ大きく吹き飛ばされる。幸い仕事終わりでも鎧を着用していたため、大事には至らなかった。けどおかげで目が覚めた。


頭に登っていた怒りが引け、怒ってはいるが冷静さが残る。静かな怒りへと転じたのだ。


これは好機だと思った。なぜならこんな日が来るのを考え、腕を磨き続けたのだから、冷静さを取り戻せれば正気はある。


剣を軽く払い構える。龍の瞳を見つめ、いざ攻めに参る。


やはり龍の攻撃の主体はあの柔軟かつ硬質の尻尾だ。時には鞭のように、あるいは槍や剣のように器用に扱う尻尾。奴はそこに固執している。そこが勝機だ。


尻尾を掻い潜りさえすれば攻撃の手は緩み、そのご自慢の硬質化を駆使し、斬撃を防いで来るはず、しかしそれはあくまで外殻上の話し、体の内部までは硬質化は不可能のはず、狙うはそこ一点のみと目標を定め、雄叫びと共に龍に打って出る。


「うおォォッ!」


龍はすかさず刺突を繰り出すが、剣で軽く足らい前進する。今度は尻尾を使った斬撃が迫るが、しっかりと受け止め弾く!


今度は複数回の連続の斬撃も対処し、二度目の刺突が上部より繰り出された。打点を活かした攻撃だが、読み通りだ。


剣の腹でちょいと進路を変え勢いよく地面に突き刺さる。いくら雨で湿っているとはいえ、この丘の岩盤が強固な事を知っている。家を立てる時に苦労はしたがまさか、この様な形でこちらに地の利があるとは思いもしなかった。


龍は尻尾を抜く動作をするが、硬い岩盤に突き刺さった尻尾は中々抜けない。龍の尻尾が上手く胴体へ渡る架け橋となった。


俺は躊躇なく龍の尻尾からかけ上がろうと足をかけた。するといっそう龍の抵抗が増すが、龍の尻尾に手をかけ収まりを待った。


そして龍の尻尾が勢いよく地面から抜ける。その時大きく振り上げられた尻尾の反動を利用し龍の顔を目掛けて、刃を向ける。


龍は反射的に口を大きく開け噛み付く素振りを見せたがそれも狙い通りだ。俺の狙いはここだ!


大きく血飛沫をあげ龍が唸り声と共に悶え苦しんだ。剣の切っ先は龍の左の眼球を貫いていた。


大量の返り血を浴びるが、ここで引く訳には行かない。このまま体制を崩しさえすれば殺すことができる。


龍の荒ぶり要はとても凄まじく地面に何度も体を打ち付けられたがそれでも断固として離れることはしなかったが、筋収縮が緩み、剣が自然的に抜け自重落下を起こした。


地面に着地すると、龍は息を荒らげこちらに残った右目で凝視する。しかしこちらの怨みはまだはらされていないと俺も強く睨み返す。


すると龍は何を思ったか、尻尾を巻いて逃げていった。俺は追いかけようとしたが、打ち付けられた体の痛みは凄まじいものになっていた肋は数本折れており、よくよく見れば左手も骨折している。


今の今まで気づかなかった。龍が去ればそこに残るのは同じ悲惨な光景。妻子の亡骸が横たわり全開した家、既に過去の産物としてそこに点在しているだけ、俺は悔やんだ。


だが、自然と涙は零れなかった。愛する者を失った悲しみは心が裂けるほど痛い。けど涙は出ない、友に流した涙で俺の中から枯れ果てたのだろう。だが、心の中はずぶ濡れだ。


心の涙を永遠に流し続けるのだ。これからも…


次回で最後です。

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