職業解禁
「あ、あ、あの。すみません、レベル0と職業未定ってどういったことでしょう?ほかのステータスはわかるのですが…」
控えめに声を上げたのは田中。長い前髪に小太りなやつで、友達はいない。
そんな奴が声を上げたのでヤジが飛んだ。
しかしガルドは田中の質問に頷いて、「それはそこの石に触ってみればわかるだろう。この世界に適応すれば職業も決まる。」と答える。
それから忘れていた、と「上から体力、知力、信仰心、魔力、生命力、そして運。あとは個人でスキルを持っているものもいるだろう。それは強大な力となるから、あとで使い方は帝国騎士団がレクチャーするので心配はいらない。」 と。
そうか、職業はここで決めるのだな。
それからスキルに関しては言い方から見れば持っている人もいない人も分かれるようだ。
アルティメットに関しては後で聞けばいいか。
さて、それにしても田中が一番初めに職業解禁か。
何になるんだ?魔力があるなら魔法使いはあるだろうし。
旭は重要なことを忘れていた。
なぜこの世界に呼ばれたのか、帰り方はあるのか、そして「世界に適応」という事の意味とは。
クラスの大半はそんなこと気にするような奴ではない。完全に頭はファンタジーのほうに向いていた。金髪のヤンキーも、旭もそれは同じことだった。
田中は恐る恐る石に触れる。
しばらくの沈黙の後、「錬金術師...」とつぶやいたのを、ガルドと金髪は聞き逃さなかった。
「なに、君は錬金術師の才があるのか!」
「えッ、あ、はい。なんかレベルが上がってステータスが上昇して合成スキル?っていうのが出たんです。そしたら錬金術師が…」
「そうか、この国には錬金術の才を持つものは少ない。もしかしたら、まだ誰も見ぬ錬金術の高みに行けるかもしれぬな。」
べた褒め、なのかはさておき褒められている田中は顔を嬉しそうに赤くさせた。
それを見ていた金髪は快くなかったのだろう。隣に尻軽を侍らせて石に向かった。
その様子に気が付いた田中の肩を押し、思わず田中が倒れる。
「だっさ。」
尻軽女はぱさぱさの毛先を弄びながら、田中を一瞥した。
この状況はいつものことだが、ガルドや帝国?のみんなからしたらどう見えているのだろう。
ちらりとそちらを見ると、ガルドは側近に対して何かを指示をしているようだった。
金髪はステータス画面を見終えたのだろう。
腰を抜かした田中の前にしゃがんで、にっこりと笑った。
ピアスだらけの顔で、心底嬉しそうに笑っていた。
「...田中、残念だったな。俺は勇者だ。」
あぁ、俺の勇者になって帝国ハーレム造りの運命は終わったな!
※
先ほど勇者が出たという事で帝国側は大騒ぎだった。あのガルドも金髪と対等の場所に降りてきて、何か話しているようだった。相変わらず態度は悪いが、悪い気はしないのだろう。
機嫌よく会話をしていた。
まぁ勇者という夢がついえたからと言って、ここでへこむ俺ではない。正直勇者とか面倒くさそうだし、なんんか先に勇者が出てよかったなとも思えて来た。
それはさておき、さて。
職業自分にはどんな職業が解禁されるんだ!?
旭はワクワクしながら、石に向かう。
クラスメイトの会話を聞くに、尻軽が魔術師。それから大きな声で馬鹿にされるおさげは商人、金髪の仲間は聖騎士、司祭と明らかにあの性格のものたちが就いたら絶対ヤバいと推測は簡単だ。
帝国もこれは苦労するのではないか?まぁ、俺の知ったことではないが。
石に向かって手をかざすと、ステータス画面が表示される。
『如月 旭を世界に適応させます』
如月 旭 Lv.1
職業 : 未登録
HP:24/24
MP:69/69
STR:10
INT:30
PIE:9
MAG:46
VIT:12
LQ:48
|アルティメット・スキル《究極技能》
・無関心
適正職業
:魔法使い
:召喚士
:魔物使い
:盗賊
※サブ職業も選択可能です
ほほう?
つまりこの中から二つも職業を得られるということか。
先ほどまでみんなの職業選択を見ていたのだが、見た感じ一つの職業しか選択できない・または一つの職業のみが適正だったのだろう。二つ目というのは見受けられなかった。
これは俺へのギフトなのか…?
とりあえず魔物使いと召喚士の違いが判らないので、クリックしてみる。
『召喚士:この世の理から離れたものを召喚して契約する者』
『過去にいた召喚士を見る』
▽ はい
いいえ
この世の理から離れたもの…俺の知っている範囲だと悪魔とか天使、はたまた異形のものとかか?
とりあえず過去にいた召喚士の情報とやらがあるらしいので、はいを押す。
空中に表示された文字に、指が触れると次の画面に移動した。
『召喚士サン:ジェーンドゥという二つ名を持っている召喚士。悪魔バフォメットと契約を結び、物質を溶かして固める力を得た。出身地である町を一夜にして滅ぼして討伐された。このため、召喚士は危険な職と認識されている。』
魔女…悪魔と契約して力を得たのか。
では、魔物使いとは?
こちらも表示する。
『魔物使い:魔力から生まれた魔物を力で制した場合、魔物の核に契約させることで使役する。しかし力が尽きれば契約は解かれ、魔物も自由の身になる。
過去にいた魔物使いとしては、クックという男が有名。
クックは魔王軍直属の魔物を使役し。魔王討伐に貢献した。』
こっちはこの世界にもともといるものを倒して尚且つ自分が魔物に殺されるかもしれないというリスキーな職業か。
となると惹かれるのは召喚士で、サブには盗賊かな。
隠密スキルや鍵開けはゲームでいえばロマンだからな。最悪このクラスでパーティーを組まされたら隠密も必須だ。関わったら魔物と戦うよりひどい目に合いそうだからな。
とりあえずの決定だ。
魔術というロマンもよかったが、どうせなら契約してみたいからな。
俺が登録を終えたのを見て、ガルドがクラスメイトを兵士に食堂へ案内させるように指示した。それから後で各々の職業や説明を行うので、とりあえずついてきてほしいとのこと。
煌びやかな内装の広間から、大きな扉の外に出ると、広い廊下が見えた。
ぞろぞろと続く列の中で、誰かに声を掛けられる。
「あの、如月君」
控えめな声は一瞬わからなかったっが、振り返ったらそこには俺と同じくらい陰湿な雰囲気を持った男、山田がいた。
山田はこのクラスではもちろん友達がいない。
山田、如月、おさげと続き10人くらいはぼっちだ。
あとの20人はどっちつかずの奴らと、あとの10人は金髪、尻軽のグループだ。
そんな山田が俺に何の用だ?
「どうした?」
「実はさ...俺の職業さっきはガルドさんの前では魔術師だったって言っちゃったんだけど、実は魔法使いなんだ。」
うんそれがどうした?って感じの相談を持ち掛けられる。
魔術師は尻軽と同じ職業だ。それと魔法使い?何が違うっていうんだ。
そういえば、俺の職業候補にも魔法使いって書いてあったな。
「俺、見たんだよ。魔法使いとも魔術師が候補にあって…説明を表示したら出たんだ。えーと、簡単に言えば魔法使いが魔術師の上位互換なんだ。魔術は人間が魔法を改善したものなんだって…詳しくはないからなにもわからないけど、この後俺が魔法使いだって知られたら…鬼龍院さんになんて言われるか!」
「鬼龍院?」
「あの茶髪の女の子だよ…鬼神君の彼女さん...ほら、彼女魔術師だって言ってたから」
あぁ、鬼龍院が尻軽で、鬼神が金髪か。
あいつらそんな豪勢な名前だったのかよ。キジンってヤバすぎだろ。
まったく興味がないから知らなかったな。
で、山田は上位職に就いたから下位互換の鬼龍院に何されるかわからない、と。
「まぁいいんじゃないか?ほかの人のステータス画面は見えなかっただろ?隠し方はあるんじゃないか。上位職が下位職の魔法使えないなんてこともないだろうし。」
「そ、そうかな。」
「第一この世界に召喚された理由もわからんし、まだ得体のしれない帝国には隠し事しても大丈夫だろ。」
「そっか、そうだよね!そういえば如月君は何の職業だった?」
俺は召喚士という職業は危険認定されているのを思い出し、サブの盗賊だという事にした。
「へぇ、パーティーには必須職業じゃん!鍵開けに罠感知、夢があるね!」
お、山田は結構わかっているようだ。
俺たちは食堂につくまでの間、結構ゲームの話で盛り上がった。
今まで同じクラスだったのにちゃんと話したのは、初めてだった。