孤独こそがパワー
いつもと同じ日常は酷くつまらなかった。
誰とも話すことは無い。
というより、周りの低俗なクラスメイトとははっきり言ってつるみたく無い。
自分からぼっちに成り下がっているといえばそこまでだが、そう言いたいやつはそう言えばいい。
自分の意思でなっているひとりぼっちを馬鹿にされる筋合いはない。
今日もまた空想の世界に入り浸りながら、ただ授業を右から左へと聞き流した。
低脳たちに合わせた劣った授業など聞く意味もないからだ。
自分はとても頭がいいとは思ってないが少なくともこのバカ共よりはマシだ。
不愉快なお喋りで授業などまともに受けず、お菓子を食べてスマホでゲームをして、ある時は一人の女の子を後ろから嘲笑う。皆つまらない人間だ。
「マジで!?ありえねー」
「いやいや、本当に心だったんだよ!あの女絶対援交してるってマジで」
「声でけーって、聞こえるだろ馬鹿!」
一際大きな声で話す2人の女子は視線を同じ所へとやった。そこにいる一人の女の子は、長い黒髪をお下げにして《いかにも》という感じの子である。話が聞こえていたのだろう、顔を下にして震えていた。
そんな彼らを見て不愉快だな。と呟いて、再び空想の世界へと旅だった。
偏った性格をしている彼の名前は如月旭。アサヒという明るい名前からは想像もできないくらい陰湿な考えの男。かくいう彼は何故この普通科高校の熟条高校(偏差値38)に通っているのかというと、家がいちばん近かったからである。実際彼の偏差値や内申点は悪い方ではなかったので、もっと上を目指すことも可能だっただろうが。
今になって彼はこの高校を選んだことを海より深く山より高く後悔していた。
そんな彼にも一つ転機が訪れる。
それは皆よく知る俺TUEEEE展開異世界転移のお時間であった。
※
おいおいマジかよ勘弁してくれよ。
「成功したか。」
6限目。ようやく最後の科目だと嬉しんだ矢先の事だ。
先生がプリントを配る途中で、ぱっと眩しい光がクラス全体を覆った。
タイル張りの床に淡く映し出された魔法陣がクラス全体を包み込み、誰かが叫ぶまもなく消えた。
そう、全て消えたのだ。
人間だけがパッといなくなり、誰かが持っていた無機物のシャーペンがごろりと転がった。
目を覚ましたのは煌びやかに装飾が施され、天井からはきらきらと光り輝くシャンデリアが吊るされている。王室の様な場所だった。
広さも相当で、周りのクラスメイトと先生が40人ほどいるのに、まだ全然余裕があった。
それどころか、辺りには大量の兵士のような人々と、明らかに王様の様な風貌の男と、ローブを纏い杖を持った物が1、2、…全部で10人ほど円形に並んでいる。
「おい、なんだよこれ」
「ふざけんじゃねーよ、おいジジイ!」
「理人くん大丈夫?」
「あっ…ごめんなさい」
「触ってんじゃねーよ!きったねーな性病がうつるだろ!」
「まだ秘蔵メモリを抜き出していないのにバレたら…バレたら!!!」
自体を把握したクラスメイトたちが騒ぎ出した所で、先生も混乱している為意味のわからない言葉ばかり言っている。
端っこの方で1人だけぽつんと立っていた旭だけは、得意げに事態を迅速に把握していた。
恐らくこれは異世界転移という流行りものだろう。
間違いない。この感じは異世界に飛ばされて勇者となった俺らに魔王を倒すのをお願いするまでがテンプレート!という事は、だ。
お決まりのステータス画面や最強スキル、はたまた王家からの洗脳やら異種族差別まで。あらゆる展開が待ち受けているのだろう。
しかしここで、ふと不安がよぎる。
もしもスキルというものがあって自分だけがクソスキルだったら…?
「落ち着いてくれ皆の者。急にここに飛ばしてしまい申し訳ない。ギア帝国の代表、そして一個人ガルドとして謝罪しよう。」
雑多な騒ぎの中でも、その声だけはみなの耳に届いていた。ポカンとした表情でその声の主である男を見つめるもの、大きな声で悪態をつくものと様々だが、男は続けた。
「ここギア帝国は科学や魔術を基本として成り立つ大陸一の都市である。ここ数年前に誕生した魔王を倒すために奮闘してきたが、別次元からの人間を転送する事でその人間には強大な力が宿ることが分かったのだ。というわけで君たちをここに呼んでしまったのだ。」
「よよ要するに魔王を倒してほし言ってことですよね…」
威厳ある男に吃りながらも質問したのはクラスで大人しい田中だ。
田中はクラス数人のバカどもから罵声をかけられながらも、必死に声を上げたのだ。その顔からはバカへの恐怖ではなく、これから起こるであろう「それ」に期待している顔だった。
「そうだ。」
「強大な力って言えど俺たちにそんな自覚はねーぞジジイ」
「ジジイではない。ガルドだ。まずはステータスオープンと言ってみてくれ。そうすればよく分かるだろう。」
はい来ましたお決まりですね。
俺は迷わず「ステータスオープン」と呟いた。周りもザワザワしながらも呟いたようだ。
瞬きするとそこには夢にまで見た画面が拡がっていた。
如月 旭 Lv.0
職業 未定
HP 12/12
MP 35/35
STR 5
INT 15
PIE 7
MAG 23
VIT 8
LQ 38
究極技能
・無関心
…上から順にいえば、よくある英語表記のステータスだよな。
となると、STRが力。INTは知恵。それから信仰心と魔力、生命力、LQは…運か。一瞬わからなかったけれど、何とか理解はできた。
というか、普通のスキルなるものはないのか。
この世界でのアルティメットスキルがどのような立ち位置かはまだわからないが、一人に一つが原則ということでいいのだろうか。
旭はまだ右も左もわからない状況のまま、何とか知恵を働かせるがここはやはり帝国の代表さんに聞くのが早いだろう。
と、声を上げようとしたところで一人のメガネ男子が立ち上がった。
その姿は、とても教室で教科書カバーの下に二次元18禁雑誌を仕込ませる山田のものではなかった。
そう、彼もまた異世界転移系は大体網羅している。
だから、旭と同じくこの状況を理解しているのだろう。
そんな彼から出た言葉は、クラスの馬鹿どもを大笑いさせた。
「ガルド代表、職業未定というものや、レベル0に関してはどういうことなのですか?この、ぼ、僕が無職というのは…」
せっかく威勢よく言ったものの、最後はしりすぼみでどもってしまったのだ。
もちろん彼は今ここでネタとなる。その様子をひやかすもの、笑うもの、かわいそうにみるもの、そして自分と同じ境遇から目をそらすものまで。このクラスは多種多様だ。
山田は顔を赤くしながらも、ガルドの言葉を待っているようだった。
「そうだ。君たちは異世界から来たのだからまだこの世界に定着していないのだ。そこにある鑑定石を使うことによって、この世界に初めて定着する。そうしたら職業解放によってステータスに基づいた職になれる、というわけだ。」
もちろん、ステータスが変化することで上位職にも進化させられる。ガルドの言葉に、山田は「是時僕に鑑定石をつかわせてください!」と頭を下げた。
そんな必死な様子にガルドは少し微笑んで、触ってみろと告げる。
そういわれた彼は石のもとまで走り、そして触れた。
「…Lv上昇に…ステータスに加護が!」
「職業は...錬金術師?一つしかないのか。」
どうやら山田は錬金術師だったようだ。
ガルドはローブをまとった奴らから一人を呼ぶと、錬金術師の師としてしっかり頼むぞ、と声をかけた。
そんな様子を見ていた金髪や尻軽は当然面白くない。
くだらない、と一蹴するかと思ったが、金髪が率先して石に近づいた。
そして自分のステータス画面を見てにやりと笑う。嫌な予感がするな。
「おい山田」
「な、なんでしょう岸根君。」
「俺は‘勇者’だ。」
その一言に、王室の皆がざわめいた。
「勇者!?」
「召喚は本当に成功したんだ!」
「これで救われるぞ…」
「皆、静かにしろ!」
ガルドの一声で皆が静まり返る。
そして岸根に近づいて、「君は勇者なのだな」と質問する。それに対して岸根は得意げにこたえた。そうだ、俺こそが勇者だ、と。
旭が勇者として活躍する展開は消えたな…。彼は一人でこっそりと絶望した。