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前編

梅雨明けの候、皆様いかがお過ごしでしょうか?


僕の名前は「木匠きしょう つむぎ

とりたてて紹介する様な特技も特徴もない、ごく平凡な高校一年生である


これはそんな平凡な僕の、ごくごく平凡な日常の話だ






高校生になって3ヶ月も過ぎ、そろそろ慣れてきた通学路

何故か僕にだけ大声で吠える近所の芝犬

雲一つない、澄み切った青空


「つむちゃーん!」


それから、歩道の向こう側から手を振って駆けてくる、淡い紺のブレザーの制服を着た女の子

何故か毎日一緒に登校しようと追いかけてくる幼馴染「追儺ついな めぐる」。そして・・・


キキィーー!!!


「ドゲブゥッ!!!」


そんなめぐるを跳ね飛ばして去って行く大型トラック、だ


(うん、いつも通りだな)


僕はうんうんと頷きながら、地面に倒れたままピクピクと痙攣しているめぐるの元へ歩いていく


「おーい。大丈夫か、めぐる? 今日は随分と飛んだな。さっき明らかにJKが出しちゃいけない声が出てたぞ、JC気分が抜けてないんじゃないか?」


そう言って僕は倒れているめぐるの横に座る

するとめぐるは僕の方へ虚ろな視線を向けながら、まるで余命幾ばくもないヒロインの様な弱弱しい声で呟き始めた


「つむ・・・ちゃん」

「ん? どうした?」

「あのね・・・実はどうしても・・・つむちゃんに聞いて欲しい事があったんだ・・・」

「そうか。学校に遅刻するから手短に頼む」

「私ね・・・ずっと前から・・・。つむちゃんの事が・・・好き・・・でし・・・た」


そこまで言った所でめぐるは力尽き、ガクッと目を閉じる

そんな彼女の最後を看取った僕は


「ハァーーーーー・・・」


っと、大きくため息をついた


そう、これは僕にとって平凡な一日

毎日の様に繰り返される日常

いつもの様に繰り返される「最終回」なのだ






さて、ここで少し説明をさせてくれ


僕の平凡な一日、僕にとっての平凡な日常

それがどの様な物であるかを説明させてほしい


と言っても、それは何も難しい話ではない

一言で言うなら、僕の日常は「最終回」なのだ


うん、何を言っているんだコイツは? と言う視線をありがとう

そうだな、言葉で説明するよりも実際に見てもらった方が分かりやすいと思う


というわけで、少し時間を戻そう






という訳で、朝の7時半

ジリリリリリ! と言ったクラシックな目覚まし時計の騒音により、僕の一日は始まった


まず僕はその近所迷惑な騒音をまき散らす目覚まし時計に、まるで一刀両断するかの様にチョップを食らわせてベルを止める


もちろん、本当に一刀両断などしない

買い替えるのが手間だし、それ以前に手が痛くなるだけだ


そして目を覚ました僕は洗顔、着替え、朝食

いつも通りそれらの朝の準備を手早く済ませ、学校へ向かう為に家を出る


僕の通学手段は徒歩だ

僕の通っている高校までは徒歩で20分程度だからである


ここでカンの良い人は気づいたかもしれない

そう、僕がその高校を志望した理由はお察しの通り、近いからだ


いや、待って欲しい

通学時間が短いと言うのはとてもとても重要な事なのだ


仮に都内の進学校に通い

家から駅まで15分、電車で一時間、更に駅から学校まで15分かかったとする

通学に1時間半、往復なら3時間だ


一年で学校に通う日数はおよそ200日、3年で600日程

つまり600日に3時間をかけて3年で1800時間

ミニットなら108,000分、セコンドなら6,480,000秒

これほどの時間を通学に費やす事となってしまう


一度限りの青春と言う時間を有効活用する為

そう、通学時間

これは人生において死活問題と言っても過言ではない重大な問題なのだ


と言った感じに、僕が通学の最中ぼけーっと脳内で持論を展開していたその時


「みうー! 頑張ってー!」


どうやら今日最初の「最終回」に出くわした様だ






車椅子に乗った少女、頑張れと声をかけているのは母親だろうか?

少女は車椅子の手すりに手をかけ立ち上がり、そして震える足でゆっくりと母親の元へ歩き出す


「信じられない・・・! 奇跡だ・・・!」


母親の隣にいた白衣のおじさんが声を上げる、おそらく少女の主治医とかそんな感じだろう


そして少女は更に前へ歩を進める

今にも倒れそうな程フラフラとした足取り

だが少女は一歩一歩確実に、母親の方に向かって歩いていく


そしておよそ10メートル程の距離を歩ききると


「お母さん!」

「みう!」


少女と母親はガシッと親子の抱擁を交わす


「よくやったぞ! みう!」

「良かった! みうちゃん!」


それを見守っていた父親、少女の友達や主治医らしき人

皆が感動でむせび泣く中・・・


「・・・」


僕は無言でスタスタと、彼らの横を通り過ぎていく


(うん、「最終回」だ)






そんな時、今度は別の家から声が聞こえてきた


「おじいちゃん! 死なないで!」


今度はどうやら老人が亡くなる所らしい

布団に眠る老人が周りを囲む家族達に向かって語り掛ける


「儂の人生・・・本当に色々な事があった・・・。じゃが、最後は子供や孫たちに囲まれて逝ける・・・」


多分この辺りで回想シーンが入っているはずだ、少し待とう


「良い人生じゃった・・・」


そして回想シーンが終わり、老人はゆっくり目を閉じる


「おじいちゃーん!」


そして子供達が涙を流す中、老人は満足そうに息を引き取った


(これも「最終回」だな)


そんな事を考えながらやはり、僕はいつも通りスルー







皆もうすうす感づいている頃だとは思うのだが。その時


「そ、空を見ろ!!!」


突然、モブAが空を見上げながら叫んだ


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!!!!!


まるで空全体を揺らす様な低い駆動音

そこには地上全てを覆い隠す様な巨大な飛行物体、宇宙人の船があった


「宇宙人の侵攻だ!!!」

「もう地球は終わりよ!!!」


一般市民AとBがパニックに陥る中、僕はため息をつきながら空を見上げる

その時、遠くから小型の戦闘機らしき物が飛んできた


「あ、あれはまさか! ジョー!?」


日本の住宅街には全く不釣り合いなブロンド美人が戦闘機を見ながら叫ぶ

それを望遠カメラで見ながら、戦闘機のパイロット、ジョーは宇宙船に向かって突っ込んでいく


「マリア・・・。君の住む世界は俺が守る! うおおおおおっっっっっ!!!!!」

「ジョー!!!!!」


そして戦闘機が体当たりを仕掛けると宇宙船は爆発、跡形もなく消え去った

一体何処にそんな爆薬を積んでいたのかなどとは考えてはいけない


「やった! 世界は救われた!」


市民達が喜びの声を上げる中、一人マリアだけは涙を流しながら崩れ落ちる


「そんなジョー・・・。世界を救う為に自分を犠牲にするなんて・・・。ジョー!!!!!」


そんな悲痛な叫び声を聞きながら、僕は


(大丈夫。アイツ絶対生きてるよ)


脳内でツッコミを入れながらスルー


「マリア!」

「生きていたのねジョー!」


そんな茶番を背中で聞きながら、いつも通り高校へと向かうのだった






そう、もう皆にもお分かりいただけただろう


何故か僕の周りには「最終回」が雨後のタケノコの様に跳梁跋扈しているのだ

理由を考えるのは3分で止めた


最終回と言えば

まさに物語の集大成、感動のフィナーレな訳だが

そればっかり見せられれば感動もクソもない


仏の顔も三度まで、映画の続編は二度目まで

ぶっちゃけすぐに飽きた


とは言えだ

これは僕にとってそれほど問題のある事ではない


何故なら、これは彼らの物語であって僕の物語ではないからだ


彼らにとって、僕はただのモブ

ただの学生、一般市民


僕と言う存在が彼らの物語に何の影響を与える事がない様に

彼らの存在も、僕には何の影響を与える事もないのだ


よって、海底人が攻めてこようが地底人が攻めてこようがインディペンデンスデイがやってこようが

基本的にはスルーしてしまえば問題ない

僕以外の誰かが解決してくれる


しかし、そんな僕にもたった一つだけ無視出来ない懸念事項がある


それが今僕の目の前で虫の息になっている幼馴染、追儺 輪の事だ


彼女とはそれこそ物心ついた頃からの付き合い

異論の余地を挟みようもない程のテンプレ幼馴染である


そして例にもれず、僕の周りにいる彼女にも「最終回」がやってくるわけだが

残念な事に、この場合僕はモブと言う訳にはいかない様なのだ


赤の他人とは違い、僕と彼女はそれなりに関係のある間柄だ

よって僕の存在は、彼女の物語に大いに影響を与える

僕の取った選択により彼女の運命が変わると言う事だ


まあ正直、別にめぐるがどうなろうと知った事ではないと放置してもいいのだが


「めぐるを見捨てると物凄く酷い目にあう」


という、ほぼ確信にも似た直感だけはあるのだ

具体的に言うと、めぐるを見捨てると僕は死ぬ

ほぼ100%


という訳で、様々な「最終回」に巻き込まれるめぐるを僕は毎回救出してきたのだ


宇宙皇帝の花嫁として攫われた時は、「それ玉の輿じゃん、超ラッキーじゃね?」と放置しようかとも思ったのだが

やはり理不尽な死の直感に突き動かされ、銀河の果てまで救出に向かう事となった


まさに地雷、核地雷

彼女の存在は僕の平凡な日常を脅かすイレギュラー


それでいて無視も出来ないとか、どんな最悪なトラップカード

神様が居たら即刻使用禁止カードにすべきだと僕は訴えるね


そんな感じで心の中で悪態をつきながら、僕は鞄の中からAED(自動体外除細動器)を取り出す

なんでそんな物を持ち歩いてるのかだって?

それを今更僕に聞くのかい?


そして僕は平然と倒れた彼女の服の胸元をはだけさせると電極パッドを張る

そのまま音声ガイドの指示に従い


「ジュウデンガカンリョウシマシタ」

「ぽちっとな」


電流を流すボタンを押した


バチィッ!!!!!


「はうあっ!!!!!」


それと同時に、めぐるは叫び声を上げながら飛び起きる


「あ、あれ? つむちゃん? 今私大きな川を舟で渡ってた途中だった様な・・・」

「悪いがキャンセルだ。船旅はまた今度にしろ」


冥府の川の渡し守から「またのご利用お待ちしておりまーす」なんて声が聞こえてきた気がするが無視だ

当分その予定はない


その時、はだけたシャツのボタンをとめながらめぐるが「あっ」と呟く

そして顔を赤くしながらおずおずと僕に質問をしてきた


「あ・・・あのね。つむちゃん・・・・。さっき・・・私が倒れる前に言ってた事なんだけど・・・」

「ん? 僕の事が昔から好きだったって話か?」

「ぎゃーーー!!! そんなハッキリ言わないで!!!」

「なんでそこで取り乱す。よく考えろ、僕がさっきのセリフを今まで何回聞いてきたと思ってる?」

「えーっと・・・10回くらい?」

「桁が二つ足りないぞ、なんでそれで誤魔化せると思った」

「乙女には羞恥心って物があるんですーーー!!!」


そう、めぐるの死に際に愛の告白

それも僕にとっては日常茶飯事だ


毎日毎日同じセリフを聞かされて今更どう反応しろと言うのか

顔を赤らめて「僕も好きだよ」とでも言えばいいのか?

・・・自分で言っててなんだが吐き気がしてきた


「いいからとっとと起きろ、学校に遅刻するぞ」


コツン


とりあえずめぐるの頭を小突いて気を取り直そう

これはコメディーであってラブコメではない


「痛い! けど痛くない!」

「どっちなんだよ、まあどっちでもいいや。行くぞ」

「待ってよ、つむちゃん~」


そして僕はいつも通り、めぐると並んで学校へと向かう

いつも通り「最終回」だらけの学校へ向かって

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