[30] 再会…出発
シーバがニヤニヤと笑いながら座っている。シーバもゼリアも竜の姿から、人の姿に変わっている。相変わらずべたべたと引っついていることには変わりが無かったが、それでも、竜が部屋の中でお互いの身体を絡めてうねっている様子よりは、見ていて落ち着く気がした、瑠璃だった。
「何しに来たの……あんた達って、命の泉の守番なんでしょう。こんな所にいちゃ駄目じゃないっ」
シーバはゼリアを見つめると、二人一緒に微笑んだ。
「それがさ、後継者ができたんで、守番は引退だっ」
九来がうさん臭そうにシーバを睨んだ。
「後継者? そんなものが簡単にできるはずないだろう……」
「ん? それが出来ちゃったのっ俺とゼリアの子供達がさっ」
シーバが嬉しそうに笑いながら言った。
瑠璃と九来は目を丸くして、お互いを見つめた。その後、瑠璃は自分の疑問を口にした。
「子供って……何色なの?」
ゼリアが可笑しそうに声を出して笑っている。
「銀竜2頭、黒竜2頭。混ざってるのはいないよ……それぞれ、雄と雌がいる。可愛いぞ」
シーバは目を細めながら言った。本当に可愛いと思っているのだろう、ニヤニヤ笑いは収まらない。
「お前らも、早いとこ作っちまえっ」
瑠璃は真っ赤になって俯いたが、九来は怒りの視線をシーバに向けた。
「僕達のことに構うなっお前なんかに関係ないだろう。それに、さっき聞いた質問の答えになっていないっ。瑠璃が聞いただろう。何をしに来たんだっ」
シーバはチッと舌打ちして、顔を背けた。
ゼリアが仕方がないとでも言うように、溜息をついた。
「神々の父が命令を出したの。世界のバランスを取り戻せと……そして、それはバランスを崩した者達によって、戻されねばならない」
「なっなんでよっ、バランスは崩れなかったじゃないっ海月と瑠璃玉から生まれた命でバランスは保たれたはずよっ」
ゼリアは首を振った。
「あの夜、私達は天界から魔界に足を踏み入れた…その時、魔界の方がかなりの割合で膨れ上がっていたの……そんな事、思いもしなかったのよ……ほんの一時の事で、こんな事になるなんて……」
九来が目を細めて、シーバとゼリアを見ている。
「こんな事とは、何だ……」
背けていた顔を、九来に向けたシーバが口を開いた。
「この世界のあちこちで、妖精と妖魔が動き回っている。小さな小競り合いから、異種族の住処を攻撃するものまで……そして、人に危害を及ぼす輩がでて来ている……」
瑠璃は、はっと息を吸い込みながら口を手で押さえた。呼吸が苦しくなる、人の世界に妖精や妖魔が関わるとしたら……どんな事が起きるのだろう。
「妖魔の中には、人を喰らう奴らもいる、妖精の中にだって、人を惑わす奴がいる……この世界は今までにない混乱をきたすだろう……」
暗い表情のまま、シーバが告げた。さっきまで、自分の子供達の話をしていた嬉しそうなシーバとは同じと思えないほど、その瞳は暗かった。
「シーバ……自分を責めているのか。己が消えない為に、ゼリアを消さない為にした事を……そんなのは、愚かな考えだ。お前達が消えていれば、この世界はもっとバランスを失っていた……なぜなら、僕も瑠璃も離れ離れになどなれないからだ。瑠璃が天界に残るという事は、僕と別れるという事……どの道、同じだった……」
瑠璃が九来の腕にしがみ付いた。
「そうよっ私は九来と離れて天界に残ったりなんかしないっそんな事になるなら、生きていけないもん……」
「ああ、僕も生きてはいけない……と言うことだ、シーバ、ゼリアしばらく後ろを向いていてくれ、俺達も服を着たいのでナっ詳しい話はその後だ」
シーバは、ああっと小さく言うと、二人に瀬を向け、ゼリアも同じ様に後ろを向いた。
「九来……怒っていないのか……俺の身勝手を……こんな事に巻き込んだのは、初めから俺の身勝手なんだぞっ何千年も前の……俺の身勝手なんだ……」
九来は、身支度を済ませて瑠璃を膝の上に抱えあげた。
「怒っていない……お前が、瑠璃に会わせてくれたんだから……そして、お前はゼリアを愛するが故にしたことだろう。僕にも、その気持ちは分かる……」
シーバの肩が小刻みに震えた。
「そうか……すまん……九来……」
「手始めに、何処に行くんだ? シーバっ」
銀竜の背に乗った九来は、黒竜の背に乗った瑠璃を見つめながら叫んだ。
『イギリスってとこだっ』
「イギリスですってっ! 私パスポート持ってないわよっ」
「瑠璃、それはきっと必要ないだろう……」
「何言ってんのよっ外国に行く時には必要なのよっこの世界ではねっ。何にも知らないんだからっ九来は」
「僕は、きっと瑠璃の知らないことまで沢山知っている。これでも勉強したからねっイギリスの場所を細かく教えようか? 歴史から現在の経済、文化まで教えられるよ」
九来はおかしそうに笑った。
「結構ですっ、こんな所で勉強したくないわっ……ねっところで、イギリスで何が起きてるの?」
『ゴブリンが、ドワーフの棲む古い地下都市を攻撃している。ドワーフの持っているお宝が目当てだろうな。彼等は、相当な資産家だから』
「ゴブリンって本当にいるんだ……ねっドワーフって何者?」
『土堀をさせたら天下一品よ。規律を重んじて、目上の者を敬う、誇り高き種族……って言っても、長い髭が自慢の小人族なんだけど……彼等にはそれを言ってはいけないの。もの凄くプライドが高いから』
ゼリアの可笑しそうな笑い声が、竜の咆哮となって夜空に響いた。
『ゼリア、静かにしてないと。感づかれてしまう……愛しい君、少しの間静かにしていてくれ……』
黒竜が銀竜に近付いて、その身を絡ませながら飛んだ。
二頭の上に乗っていた九来と瑠璃は、夜空に悲鳴を轟かせた。
「何やってんのよっ危ないでしょうっ。バカ竜っ」
こんな途中で、と思われるかもしれませんが、第一章は取り合えずここまでにさせていただきます。
また、第二章を執筆する時には、お付き合いくださると嬉しいです。
ここまで読んでくださった方々に、感謝を込めて……
海来




