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クライ  作者: 海来
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[27] 求める

 シーバとゼリアがその姿を、それぞれに水と闇に変化させ始めたその時、いきなり九来の身体が震え始めた。

 ぶるぶると震える九来が、口を大きく開けた瞬間、そこから小さな瑠璃玉が飛び出してきた。

 飛び出した瑠璃玉は、生命の泉へと潜り、海月のものだった瑠璃色の輝きを取り込んでいった。

「はあ……はあ……何が起こったんだ……腹の中から全てを持って行かれるのかと思った……」

 肩で息をしながら、九来が喘ぎ声で言った。

 その言葉に、瑠璃からの返しは無かった。何かの異変を感じた九来は、瑠璃の顔を見るために、自分の顔をあげた。

 九来の目に、苦痛に喘ぎながらも声を出すことなく口をぱくぱくと開いたり閉じたりしている瑠璃の姿が見えた。

「瑠璃っ!」

 九来は慌てて瑠璃の背中を摩ってから、意を決したように背中の真ん中あたりに、自分の魔力を注いだ。

 さっきの自分と同じ様に、瑠璃の口から瑠璃玉が飛び出してきた。

 やはり同じ様に、生命の泉に飛び込むともう一つの瑠璃玉と溶け合うように一つになった。

「なに……どう言うこと……」

 九来は瑠璃を抱きしめながら、泉の中の輝く玉を凝視していた。

「新しい生命は、多くの力を必要としているのかもしれない……全ての力を合わせなくては、天界と魔界のバランスは保たれないのかもしれない……」

 瑠璃は、抱きしめてくれる九来の腕をきつく掴んでいた。

「ね……九来……瑠璃玉を失った私でも……」

 急に言葉を詰まらせた瑠璃を、九来は抱えなおし、髪を優しく撫で付ける。

「僕は……瑠璃玉を持っているから、瑠璃を愛しているんじゃない……僕を疑わないで、信じて……瑠璃、愛してるんだ」

 瑠璃は安堵の溜め息を付いた。さっき、瑠璃玉が身体から抜け出て行ってしまったとき、最初に浮かんだのが九来が、もう自分を必要としないのではないかと言うことだった。

 決して九来を疑ったわけではない、ただ、九来がこれまで生きてきた年月の重みを考えると、彼にとって瑠璃玉は掛け替えのないものだったに違いないのだ。

「私は、瑠璃玉の替わりになれるのね……」

 九来が瑠璃に口づけながら、その瞳を覗き込んだ。

「いや……替りなどにはなれるはずがない……これまで……きっと、瑠璃玉が、瑠璃の替わりだったのだから。僕は瑠璃と出会うために、何千年も生きてきたんだ……きっと……」


 九来の熱い息が、瑠璃の首筋に掛かり、その後直ぐに口づけが下りてくる。


 鎖骨を通って、胸元に下りていく九来の唇が、瑠璃玉のあった場所を捉え、強く吸い上げた。


「っ九来……はァ……」


 瑠璃の息が上がった。それを合図の様に、九来は吸い上げた箇所を熱い舌で舐めていく。


「瑠璃……る、り……僕のものになれ……全てを……僕に……」


「く、らい……私も……九来の全てが……欲しい……」


 二人は、瑠璃玉がなくなった穴を埋めようとでもするように、お互いを欲していた。

 ここが何処で、何がいるのかも、今なにが起きようとしているのかも、考える事が出来ないほどに、お互いしか見えていなかった。

 何度も口づけ、身体を弄りあいながら、二人の熱は急激に上がって行った。


「瑠璃……もう……」


「九来……」


 瑠璃と九来は繋がった……九来の短い叫びを瑠璃は聞いた


 その瞬間に、痛みの中で瑠璃も至福を感じた……身体の奥底から湧き上がってくるうねる様な快感


 瑠璃は意識を保つ事が出来ず、九来にしがみ付いたまま目を閉じた


 九来も瑠璃と繋がったまま、彼女を抱きしめ横になった


 目を閉じた九来の目尻から、一筋の涙が流れ彼も意識を手放した


『幸せそうな顔をしおって……目覚める頃には、新たな命が生まれておろう……』


 大天使が目を細めて、二人の姿を見つめていた。







 瑠璃は、眩しすぎる輝きを瞼を閉じたまま感じていた。

「なに?……」

 隣で九来が身を起こした。

「こっこれは……」

 九来も、いま自分たちの目の前に浮かび上がっている、眩しすぎる輝きに目を細めていた。


『新たな生命が生まれた。天界に久々に生まれた生命はなんと美しいことか……』

 

 大天使の目も細まっている。

 九来は、そっと瑠璃を抱き寄せてからその輝きに目をこらした。抱きしめた腕から瑠璃の温もりと、素肌の滑らかさが伝わってきて、九来は自分たちが何も身につけていないことに気付いた。

「瑠璃、何か着ないといけない……」

 その言葉に、瑠璃はビクッと身体を震わすとあたりに散らばっていた服をかき集め始めた。

「速く言ってよ九来っ、誰か来たらどうするのよっ」

「…………」

 真っ赤な顔をしながら、慌てて服を着始めた瑠璃を、九来は自分も服を身につけながら、微笑んで見つめていた。その間も、泉の上空で輝きを放つものは大きくなっていた。

 二人が衣服を身につけ終わるころ、シーバとゼリアが岸辺に上がってきた。

「夕べは、かなり激しかったなっ九来……」

 九来の表情が一気に硬くなり、真っ赤になっていく。

「見てたのか……」

「見てたんじゃねーよ、見えたのっ。そんな所でやってりゃ、誰だって見るって……まっいいじゃないか、さあっ新しい生命がどんなものか、ゆっくり見ようじゃないか。そろそろ、見えてくる」

 その言葉を聞いて、瑠璃も九来と共に眩しい輝きに目を向けた。

 輝きがゆるく淡くなっていく。中心に瑠璃色の輝きを残したまま、きつい光はおさまっていった。

 頭をたれ、手足をだらりと伸ばしていた生命は、ぴくぴくと身体のあちこちを動かし始めたと同時に、その身に瑠璃色の衣をまとっていく。

 どこから吹いてくるのか分からぬ風に、衣が舞い上がった瞬間、新たな生命はその身体にしっかりと力を入れて顔をあげた。

 

「しずなみ……」

 瑠璃が囁いた。

「るり……」

 九来が囁く。

 目の前に顔を上げたのは、透き通るほどに白い肌を持った、瑠璃色の瞳の美しい女性。

 瑠璃と九来はお互いを見つめた。

「九来、あれは静波でしょっ」

 九来は大きく首を振った。

「違うっ俺には瑠璃に見える……」

「私は、あんなにきれいじゃないよ……」

 そう言いながら、二人はもう一度、新しく生まれた命に目をやる。

 

『さあ、人の子よ。お前達の世界へ戻る時だ……早くせねば、またバランスを失ってしまう。風に乗せてやろう、さあ、お行きっ』


 大天使が言うと、ふわりと風が舞い、瑠璃と九来を乗せて運び出した。


 新たな命が、風の流れを見つめる


 美しい命は、瑠璃と九来に微笑みかけた


『愛を……ありがとう……』


 二人の耳に、鈴の音のような軽やかな声が聞こえた


 瑠璃は、美しい命に手を振った


 九来は、飛ばされて離れ離れにならないように、瑠璃をしっかりと抱きしめた


「さよなら……」


 瑠璃は小さな声で言った


 シーバとゼリアが泉の中に飛び込んで、手を振っていた


 二人は、あっという間に銀と黒の竜に変わって水に潜って行った











 朝の早い時間だ。

 まだ、瑠璃の両親も起きていないようだった。二人は、窓から入って、瑠璃のベットの上で横になっていた。

「これから、どうしよう……」

「取り合えず、僕は清が戻ってくるまでは、洞窟で過ごすよ。たまには会いに来て……」

 そう言って、九来はベットを下りた。瑠璃は窓に近寄っていく九来の腕を捕まえた。

「たまにじゃないよ、毎日、会いに行くから……待ってて……」

 九来は優しく微笑むと、小さく頷いた。

「瑠璃、愛してる……これからもずっと……」

 瑠璃は、九来の瞳をじっと見つめた。

「私も、ずっと愛してる……」

 九来は嬉しそうに笑って、窓から飛び降りて行った。その姿を見ていて、瑠璃はついおかしくなっていた。

「窓から出入りできるなら、毎晩、ここで寝ればいいんじゃないっ……これって、結構いい考えかもっうふっ」

 瑠璃は、悪戯な笑みを浮かべながら、部屋を出て台所へと下りて行った。

 さっきから、お腹がクルクルと鳴りっぱなしだった。

 冷蔵庫を空け、食べ物を物色中に、あっと声をあげる。

「九来に朝ごはん持って行ってあげないとっ」

 瑠璃は、慌てて弁当の準備を始めた。


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