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クライ  作者: 海来
19/30

[19] 銀竜

「どうして、私が清の弟なんだ……どう見ても、兄だろう……」

 むっとしている九来の横で、清がふんっと鼻を鳴らした。

「そんな事が気に入らないのか? 双子って設定なんだどっちがどっちでもいいじゃねーか」

「なら、私が兄だっ」

「いいやっ譲れないねっ! 俺は瑠璃を譲ったんだ、兄の立場までは譲れないなっ」

「譲られたんじゃないっ、瑠璃は私を選んだんだっお前にやるつもりもないし、譲られた覚えもないっ」

 掴みかからんばかりに、九来は清に近付いた。

「もうっ止めてよっ……私は譲られるような物でもないし、どっちが兄で弟でもいいのっ。とにかく、清の双子の弟で、私のパパと清のお父さんが勝手に決めた婚約者ってことにするのね……っで、いずれ婿養子……何か、無理やりだけど……」

 さう言って溜め息を付いた瑠璃に向かって、清は指を突き出した。

「昔ながらの婿取りと言って欲しいね。だからこそ、瑠璃のパパは九来の学費や何かの面倒を見てるって設定なんだ。うちの家の収入じゃあ、兄貴と俺で手一杯だからな。瑠璃の家にも出資してもらわないと。俺んちは、家と飯を提供するよ……勿論、家族の愛もなっ弟よっ」

 清はそう言って、九来の首に腕を回した。天井から吊られた足と、九来の首にぶら下がった腕で、清の体は宙に浮いた。

「つっ!!!」

 負担がかかって、痛めている足が痛んだろう、清は顔をしかめた。九来がゆっくりと清をベットに下ろした。

「兄さん、無理は禁物だ……私は、どうやら自分よりも子供っぽい兄を持つことになるらしい……」

 清は顔をしかめながら、九来の頭を小突いた。

「兄貴からの忠告だ、その堅苦しい話し方は止めろって。私ってのもダメ、俺か、僕だなっいまどきの高校生が私なんていわないからなっ。もっと、気をつけないといけない事が沢山ある。しばらくは、俺は一緒にいてやれないから、この計画を実行に移すのはもう少し後のほうがいいだろうな」

 瑠璃が清を睨んだ。

「何でよっ。清なんか3、4ヶ月は入院すしてるくせにっその間どうしろって言うのよっ」

 瑠璃は清の肩をぽかっと殴った。

「いってーなっ。仕方ないだろう、九来は知らない事が多いし、俺の家族にも慣れないんだ。困った事になるに決まってる」

「そうだな、私……いやっ僕は大丈夫だから、少しの間、あの洞窟にいるよ。ねっ瑠璃は心配しないでいい」

 瑠璃はしょんぼりしながら、もう一度、ゆるく清の肩を殴った。

「なにが、上出来なのよ……清の計画なんて、どうせこんなもんなんだから……」

 清は、俯いている瑠璃を見つめながら、小さな溜め息を付いた。

「だれが相談に来たんだっけ?」

 瑠璃は、小さな声で、私よとだけ言った。

 清と九来が目を合わせて、こっそりと笑いあったのには瑠璃は気づかなかった。









 月明かりの中、九来の腕に抱えられながら、まさしく飛ぶように家に帰りついた瑠璃は、ベットの上に体を投げ出した。

「は〜、今日は結構疲れたわ。九来は?」

「私……いや、僕は、それ程でもないよ……でも、瑠璃は休んだ方がいい。僕はこれで帰るから」

 そう言って、窓枠に手を掛けた九来の服の裾を、瑠璃はしっかりと握っていた。

「だめ……帰らないで欲しい……」

 振り向いた九来の目に、瑠璃の胸元の玉の輝きが映った。

「でも、瑠璃……自信がない……」

 瑠璃は、九来の胸に縋って小さな声で聞いた。

「何の……」

 瑠璃の耳に、九来の喉が鳴る音が聞こえた。

「自分を……抑えておくことが……瑠璃、お前に怖い思いをさせるかもしれない……」

「怖くない……九来は怖くない……」

 本当は怖かった。全てをあげる事は、体を繋げる事……瑠璃には初めての体験で、はっきり言って怖いし、不安だった。友達の話では、凄く痛かったと聞いているし……瑠璃の心も揺れていたが、それよりも九来と共に過ごしたかった。

 九来自身を、もっと感じたかった。色々な事があった今日だからこそ、九来を感じていたかった……何処にも行かないのだと、九来が九来のままでいてくれるのだという安心が欲しかった。


「瑠璃……」


 九来は、瑠璃の顔を上げさせると、そっと唇を重ねてきた。


 瑠璃の唇に触れるのは、熱く湿った九来の唇……それは、不自然なほどに震えていた。


「瑠璃……愛している……」


「くら、い……」


 二人の口づけが深くなって、お互いの舌が絡まりあう


 どんどんと熱が九来の体を駆け上るのと同じ様に、瑠璃の体温も上がっていく



 コンコンッ


 

 二人はいきなりのノックの音に、体を強張らせた。瑠璃の両親が起きて来るはずはない。九来が眠らせてしまったのだから。


「あのな、仲がいいのは結構なんだが、部屋の中に誰かがいるのぐらい気づいても良くないかっお二人さんっ」

 声のしたほうに目をやった二人は、驚きに目を見開いた。

「お前はっまさか……」

 白いローブのような服を、自らの銀色の長い髪をベルト代わりに留め、胡坐をかいて座っているのは、その瞳も銀色で、禍々しい鋭い牙を口の端から覗かせた男だった。

「気づいた、銀竜だ。この姿も結構いいだろっ。顔なんか、クライに似せてみたんだけど、どう?」

 銀竜がにやっと笑うと鋭い牙がきらりと光った。九来はそれを見ると、瑠璃を自分の背に庇うように下がらせた。

「何をしに来たっお前は天界に帰ったはずだろうっ」

 九来が声を荒らげた。銀竜はふんと鼻を鳴らすと、九来を睨み返した。

「上手くいかないこともある。瑠璃の中にいた女の魂が逃げ出した……捕まえるのに瑠璃の力が必要なんだよ。なっ一緒に捜してくれ、ちょっとの間だけだからさっ」

 銀竜の言葉に、九来の身体が怒りで震え始めた。

「何を言っている。瑠璃を行かせる訳がないだろうっ海月は瑠璃の身体を狙ってるんだぞ。もしもの事があったら……ていうより、お前などと一緒に行かせる訳がないっ瑠璃は行かせないっ」

 九来の怒りをものともせず、銀竜がすっと立ち上がると、あっと言う間に九来の目の前にやって来ていた。

「お前が、俺に逆らえるはずがないだろう。お前の力は俺の力のほんの一部。お前を殺す事など、虫をひねり潰すのと何も変わらない」

「どんな事をしてもっ瑠璃は私が守るっ! そう誓ったっ」

 その言葉に反応するように、瑠璃が九来の腕を強く握った。

「九来……ありがとう。でも、海月の魂が逃げたのなら、狙われる可能性が一番高いのは、この私だわ。黙ってまってるなんて嫌よっ。こっちから行って捕まえてやるんだからっ」

「瑠璃……」

 九来は戸惑いながら、瑠璃を振り返った。瑠璃の瞳は、完全に瑠璃色に光り輝いていた。

 九来の目の前で、銀竜がクククッと笑った。

「この玉を抱く者は、なかなか素晴らしい生の力を持っている。九来、お前に守ってもらわなくても、いいんじゃないか? 俺たち二人で出掛けるとするかっ」

「…………」

 瑠璃は、恐れることなく銀竜を睨んでいた。

「何言ってるのっ。九来がいるから、強くなれる。私は九来が一緒じゃないと何処にも行かないんだからっあんたなんかと二人っきりで行く訳ないでしょう」

 瑠璃は銀竜に向かって、舌を出した。

「ねっところで、どの辺を探せばいいか、心当たりはあるんでしょうね銀竜っ」

 銀竜は両手を広げて、首をかしげた。

「大体……って言っておこうかな?」

「大体などとっそんないい加減な事で、瑠璃を巻き込むなっ」

 銀竜は大きな溜息をついた。

「仕方ないだろう、あの女、魔界へ送るときにいなくなったんだ……多分、魔界のどこかにいるさ……だから、大体って言うしかないだろうがっ」

 瑠璃と九来は口をポカンと開けた。

「ま、か、い……」 

 開けた口を閉じる間もなく、九来は銀竜の首に手を掛けていた。

「そんな所に行くわけないだろうっお前にはまともな神経はないのかっ瑠璃は人間なんだぞっ」

「分かってるさ、勿論。だが、瑠璃玉をここまで輝かせる事ができる瑠璃なら、魔界だろうが、天界だろうが何処にでもいけるんだよっ。俺のいけない魔界にも行けるって事だ」

 顔色一つ変えぬまま、銀竜はふんと鼻を鳴らした。

「ちょっとっ、あんたが行けないって、どう言う事よ。それじゃ私一人に行かせようと思ってたのっこのバカ竜っ」

 銀竜は、まあまあと言いながら、簡単に九来の腕を自分の首から外した。

「だから、俺が瑠璃の中に入って魔界に行こうと思ったんだろう。一緒に行こうっていったぞ」


 バキッ 


 九来が、銀竜の顔を拳で殴った。横に向いた顔を元通り九来に向けると、銀竜は溜め息を付いた。

「これでも、殴られると痛いんだよっ」

 銀竜は、そう言うとすっと腕を振り上げた。その瞬間、九来を瑠璃色の光が包み込んだ。


 ドスンッ



 振り上げた腕を九来の体に叩き付ける筈が、銀竜は弾き飛ばされて尻餅を付いてしまった。

「くそっ……その玉が守るのはクライだけって事かっ」

 瑠璃が、九来の後ろから顔を出した。

「当たり前よっあんたなんか私に中には入れないわっバカ竜」

 銀竜は、うな垂れて壁に凭れかかった。

「あ〜あ、どうすりゃいいんだ……これじゃ、天界に戻れない……もう一度、クライの中で暮らすかな……」


「…………」


 瑠璃の部屋の中に、沈黙が下りた。



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