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1話 生け贄

本編の始まりです

 コニーは飛行車に揺られる中で、先ほど神殿で初めて目にした御神体について、うつらうつらと思い返していた。


 それは、まるで鏡で自分自身を見ているような感覚だった。

 私をじっと見つめるその相手は、深い深い青を基調としていて、その上を彩る豊かな緑や褐色、所々に点在している艶やかな白い色彩は、目の覚めるような鮮やかさだった。


 暗闇の中に宝石の様に浮かび上がるそれは、

すべてを拒絶するような威圧感と荘厳さ、

反対にすべてを受け入れてくれるような包容感、

何かを懇願するような深い祈りのような情念、


 様々な幾多の雰囲気がそこからは感じられた。


 これは私? 

 それともこれはあなた?


 曖昧な疑問ばかりが、ふわふわした意識の中を渦巻いている中で、唐突に微睡みはやぶられた。


「おい、着いたぞ。

 お前が生け贄として捧げられる舞台への到着だ」


 2台の飛行車は草木のやや少ない場所に停止した。

 コニーは4人の頑強な警備員に取り囲まれて、後ろ手に手枷をつけられた状態で歩かされる。

 おそらく今の状態では、不意をついて逃げ出したとしても、すぐに捕らえられてしまうだろう。


 もう1台の飛行車からは神殿の司祭達数人が降りたってきた。彼らはにこやかに機嫌良く談笑している。


「いやあ、豊穣を表す金色の髪とアースアイ、3つのつむじに干渉能力とは、今年はなかなか良い条件が揃っておりますな。

 さぞ御神体もお喜びなことでしょう」


「こんな中で泣き叫びもせず、落ち着いているとは、なかなか肝が座っている。

 本人も神に捧げられるのを喜んでいるのでしょうな」


『いや、誰も喜んでなんかいないんですけど?

 今さら泣き喚いたところで、誰も助けてくれそうにないし、殴ってでも静かにさせられそうな感じがするだけだし。

 これ以上、体力の消耗も痛い思いもしたくないだけなんだけどな』



 飛行車から降りた後は、細くてでこぼこした歩きにくい山道が続く。

 かろうじて道になっているということは、時々利用されているのだろうか。この、生け贄の舞台につながるという道が。


 周囲に熊や大トカゲでもいれば、呼び寄せて場を混乱させることができるかもしれない。

 コニーは気配を探ってみたが、残念ながらこちらが大人数のためか辺りに大型の生物の気配はなかった。


 少し歩いていくと水が流れ落ちる音と湿り気のある匂いがしてきた。

 音の様子からすると、川とその先に滝があるようだ。


 思った通り、一行はまもなく崖のそばに立ち、滝と崖下を見下ろしていた。


 小さな小川と滝だと思っていたが、案外水量はあり、岩肌を勢い良く水が流れ落ちている。

崖はかなりの高さがあり、下のほうは水蒸気でけむっていて滝壺は良く見えなかった。


 滝から少し横にずれた場所、崖の上から15mほどの高さの所に張り出した場所がある。

 上から見ると不自然にその部分だけが平らで白く、何らかの人工的な手が加えられているように見受けられた。


 そこが今回の舞台なのかなと思っていると、案の定、崖の上の灌木に荒縄が結びつけられていく。


 今回の集団の中では一番のお偉方である司教が、もっともらしく、見た目や声音はおごそかに訓示を行う。


「コニーよ、お前はこのうるうの年の夏至の日に、栄光ある名誉な捧げ物として選抜された。

 御神体に敬意を示し、今後も地力が活性化し、豊穣の実りで人類が繁栄するように、心を込めて舞を舞い、お前の命を奉納するように」


『名誉があるとか言うなら、お前がやれよ』


 コニーはそう思いながら、司教からしれっと視線を外す。


 心の声でも聞こえたのか、司教は舌打ちをして凶悪な顔で睨み付ける。


「相変わらず信仰心の乏しい、図太い神経の生意気なやつだな。

 今回、生け贄として早々に処分できて本当に良かったわ。

 お前達、早く準備をしろ」


 もともと後ろ手に手枷をはめられていたが、さらにミノムシのように布の袋に入れられて、首から上だけを出した状態にされた。


 さらに吊るすための縄が体幹にくくりつけられていく。


 屈辱的ではあったが、少なくとも崖の上から突き落とされるわけではなさそうだ。

 下手に反抗はせず、布や縄を巻き付けられる中で、できるだけ不快にならないように、身体の位置を微妙にずらして調整していくようにする。


 縄で吊るされたコニーは、崖に張り出した舞台にゆるゆると下ろされていった。

 布で全身を覆われているとはいえ、岩肌に身体が擦れると痛い。

 岩肌に当たらないように、若干動く両足で微妙に岩肌を蹴っていく。


 コニーが舞台に到達したのを見届けると、1人の男が籠を担いで、身軽にするすると、ロープを伝って降りてきた。


 コニーは先日まで、恩師として敬愛していたその男を目の前にして、思いの限り睨み付けた。

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