百村りか⑦
木曜日。
今日は放送委員の初仕事。佐井君と初めて登校する日でもある。厳密にいえば校内で待ち合わせだから、登校後の合流になる。
でもそんな細かいことはどうでもいい。一緒に教室に向かうということが大事なのだ。
昨日は緊張してなかなか寝付けなかった。普段はすぐに眠れるのに。
だけど朝は目覚まし時計でしっかりと起きられた。起床とともに放送委員ことを思い出したから、目覚めがよかった。
顔を洗って歯を磨く。
寝ぐせもしっかり治す。いつもは軽く済ませるメイクも、今日は時間をかける。かといって気合を入れすぎると周りの女子たちに何か感づかれるかもしれない。塩梅が難しいな。
制服を着る。
変なところはないかチェックする。いつもと変わらない。いつもから変なところはないということだろうか。いや、もしかしたらいつもから変なので気が付かないのかもしれない。その場合は手遅れ。どうすることもないので、あきらめる。いつも通りを心掛けよう。あ、でもちょっと待って、やっぱり今日はスカートをいつもより一回多く折っておこう。
自転車に乗って出発。
出発時刻が予定より大幅に早まっているが、遅れるよりはましだ。ゆっくり自転車をこげばいい。
あの交差点で必ず会うサラリーマンは今日はいない。たまに買ってから登校するパン屋さんは、この時間は開店前でシャッターが半開きになっている。少し早い時間の通学路は新鮮だ。
特別なことをしているような気持ちを抱きながら、学校に到着。駐輪場に自転車を止める。
なんでだろう。いつもは二十分かかる通学路が、十分で着いてしまった。新記録の樹立だ。もしかしたら知らない間にテレポートを習得したかもしれない。意識的に発動できないのがネックだけれど。それにもう一度使えるかわからない。使えるなら日帰りで海外に行ってみたい。あ、でもパスポート持ってないや、私。
「おはよう」
くだらないことを考えていたら佐井君が登場した。手を挙げてこちらに近づいてくる。時計を確認すると、七時三十五分だった。五分前行動。私は約十五分、くだらないことを考えていたらしい。
「おはよう」
同じように手を挙げて答える。上手く自然に言えたかな。
「待たせた?」
「今来たところ」
「それじゃあ行こうか」
「うん」