押立さくら④
昼休み、りかを連れて保健室へ。
りかは「大丈夫だから」と具合が悪そうに言っていたけれど、無理やり連れて行った。
保健室に連れて行くと、いつもきれいな格好をしている吉田先生がジャージ姿で診てくれた。
「熱中症ですね」
さらっと先生は言ったけれど、私はドキッとしてしまった。
だって毎年熱中症で死ぬ人がいるから。
先生は軽いから大丈夫と言っていたけれど、私は気が気でなかった。
体育祭の最中、隣に着いていたのに、熱中症ほどの具合の悪さを見逃してしまうなんて。
自分の無能さに嫌気がさす。怒りが湧く。
「ごめんね、りか。私気が付かなくて」
「ううん。全然大丈夫だよ。さくらがいたから大丈夫だったと思う」
「ごめんね」
なんだか泣きそう。いや、もう泣いているかもしれない。
「押立さん、午後は出る競技あるの?」
吉田先生が私に聞く。
「ありません」
「そう。それじゃあ百村さんの事、診ててもらえる? 私、保護者の方探してくる」
「わかりま……」
私が答え終える前にりかが止める。
「いや、大丈夫です。本当に大丈夫です。少しここで休んでからまた戻ります」
「でもねぇ……。私もここにずっといるわけにもいかないし、だからといって病院に行くほどでもないと思うから」
「すぐよくなりますから」
りかの訴えに吉田先生は困っているようだ。
「それなら私が、よくなるまで、ここで診ています。先生は仕事をしてきて大丈夫ですよ」
「そう? 押立さん、頼んでも大丈夫?」
「ええ。何かあったらすぐに呼びます」
「うん、そうして」
吉田先生は、最後にもう一度、何かあったら言うのよと言って保健室を出て行った。
「ありがとう、さくら」
「ううん、大丈夫。せっかくの体育祭だもんね。こんなことで帰りたくないよね」
「うん。ありがとう」
ベッドに横になるりかの隣に座り、話をする。
よく二人で休日に会ったりしていたので、話すこともあまりないけれど、二人きりの保健室という今までにないシチュエーションにドキドキしてしまった。
一度担任の佐藤先生に事情を話に部屋を出たけれど、それ以外は二人きりだった。
二人きりの保健室で、いろんな話をしたけれど、佐井君の事をどう思っているかは、りかの口から話すことはなかった。
それには少しほっとした。
もしその話をされたら、受け入れなければいけなくなる。
りかが佐井君の事を好きなのは私には一目瞭然だけれど、まだ確信ではない。
それが大事なのだ。
保健室で話をしている中、一向に元気の戻らないりかに言った一言。
「いつでもりかを大事に考えているよ」
りかには私からのエールに聞こえるだろう。
でもこれは告白。
精一杯の私なりの告白。
私のりかに対する想い。
ストレートに好きだとか、付き合ってほしいとかは言えないし、言いたくないし、言うのが怖い。
このまま伝えなくてもいいと、今は思っている。
りかはもしかしたら気が付いているかもしれない。
でも、私ははっきりとは言ってはいない。
りかにとっては、まだ確信ではない。
それが大事なのだ。