押立さくら②
「りか、大丈夫?」
体育祭の放送委員のテントの中、りかがパイプ椅子にぐったり座っている。
体育祭が始まったばかりなのに。
開会式の時、クラスの列から元気のないりかが見えた。
第一プログラムの百メートル走に私は出ない。
だからすぐにりかの元にやってきたのだ。
「うん。何でもないの。気にしないで」
りかはそう言うけれど、気にしないことなんてできない。
明らかに調子が悪い。
だからといって、しつこくするのも違うと思う。
「わかった。何でも言ってね」
一度離れて、自動販売機のところへ。
スポーツドリンクを買って、りかの元に戻る。
「飲み物買ってきたよ。飲む?」
「ありがとう」
百メートル走が終わったようだ。
選手たちが続々と帰っていく。
「幸助! 私の走り見てた?」
「あ、麻衣か。いや、見てないよ。放送委員で忙しくて」
「えーひどい! 見てって昨日メールしたじゃん」
「見れないかもしれないってメールしたじゃん」
「そうだけどさぁ」
小川さんが佐井君に話しかけている。
りかは俯いている。
私は何も言わずに、りかの隣に座る。
ペットボトルのキャップを開け、りかに渡す。
静かにゆっくり飲んでいる。
それでいい。
だけど時間は過ぎていく。
私の出番はもうすぐだ。
「一度戻るね。辛かったら保健室行った方がいいよ」
私はそう伝えると、クラスの集合場所に戻った。
クラスの集合場所はりかのいるテントの向かいだ。ここからなら様子が見える。
佐井君がてきぱきと仕事をしている。
調子の悪いりかの分まで働いている。ううん。佐井君には働いてもらわないと。
私はわかっている。りかの調子がなぜ悪いか。
佐井君は気が付いていないようだけど。