百村りか⑤
「それじゃあ担当でグループになってください」
山田先生がそう言うと、先輩たちが立ち上がる。
「木曜日の担当はこっちへ来てください」
一人の先輩が「木」と書いた紙を掲げている。
「行こう」
佐井君が鞄を持って立ち上がったので、私も付いていく。
「一年D組の佐井です」
「お、同じく一年D組の百村です」
「よろしく」
先輩達も自己紹介をしていたが、しっかりと全員の名前は忘れてしまった。後で佐井君に聞こう。
冷静に考えれば、いきなり一年生に放送室を任せるわけがない。先輩たちと一緒にやって覚えていくものだ。
何を浮かれているんだ私は。って、浮かれてたの? 佐井君と二人って浮かれてたって事?
ま、まあ、男子と二人ってことが今まであまりなかったから、浮かれていたっていうより、動揺していただけだ。うん、多分そうだ。
上の空で話をあまり聞いていなかったが、ある程度何かしらがまとまったようで、先輩の一人が山田先生に報告をしに席を立った。
「ってことでよろしくね、りかちゃん」
女の先輩が優しく声をかけてくれた。
「は、はい。よろしくお願いします」
「じゃあ木曜日担当は解散していいよ」
山田先生が解散の許可を出してくれた。曜日ごとの流れ解散のようだ。
先輩たちが「おつかれ」と言って席を立つ。
「じゃあ俺たちも帰ろうか」
佐井君が声をかけてくれたので、私たちも挨拶をして教室を出た。
「俺はこのまま帰るけど、百村さんは教室に用があったりする?」
「ううん。私もこのまま帰るよ」
「そう。じゃあ行こう」
一緒に階段を降りる。
「佐井君は自転車?」
「違うよ。電車だよ」
「そっか……」
「なにかあった?」
いや、別に残念だったわけではない。全然大丈夫。
「あ、いや、あの、ほら、木曜日の担当のときに、一人で放送室に入るのって気まずいから、一緒にどこかで待ち合わせできればなって思って」
「確かに。うん、確かに気まずいな。そうだね、駐輪場で待ち合わせしよう。七時五十分に放送室だから四十分に駐輪場でいいかな?」
「いいよ。そうしよう」
待ち合わせの約束を取り付ける。上手いこと切り抜けられた。ああ、いやいや、違う。切り抜けるとかそういうわけではない。
駐輪場にたどり着く。駐輪場は学校の裏門にあるが佐井君も一緒だ。学校の最寄り駅は裏門を使ったほうが近いからだ。正門を使っている人っているのだろうか。
「じゃあ当日はここで待ち合わせだね」
自転車の鍵を解錠しながら確認をする。
「うん。よろしく」
私の家は門を出て左。最寄り駅は門を出て右。あと数十歩でお別れだが、佐井君は待ってくれている。
あ、門を出て左に行くことは言っていないから、駅まで一緒って勘違いしているかもしれない。
ってことは、言わなければいいんだ。