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日吉瑞希④

 体育祭。


 天気にも恵まれ、運動日和だ。


 私たち体育委員と、佐井君たち放送委員は普段より早く登校している。佐井君たちは朝の放送担当だから慣れてるようだったけれど、毎日遅刻気味の私にとってはどんな競技よりも辛いものだ。


 タイムスケジュールを片手に競技と必要な備品の最終チェックを行う。


 競技の入退場の人の流れと待機場所を、石灰で白いラインを引く先生についていきながら確認する。


 その間、放送委員はマイクのチェックや競技中に流す音楽の確認、ボリュームの調整を行っている。


 わくわくしてきた。朝の眠気は吹っ飛んでいる。


 準備を一通り終えると、一度解散となる。朝のホームルームのために教室に戻る。


 今日はジャージ登校の日なので、クラス中がジャージ姿だ。担任の佐藤先生も似合わないあずき色のジャージを着ている。紅組だからあずき色にしたのかな?


 あずき色のジャージの佐藤先生から、一通り体育祭の注意事項を聞いたら教室を出る。


 南君と私は体育委員として準備用テントに向かう。


 百村さんと佐井君は放送委員用のテントへ。


 百村さん、具合が悪いのかな。元気がないみたいだ。


 全校生徒が集まった校庭は騒がしい。大人になって家を買うときがきたら、高校の近くはやめようと思った。


 炎天下の中、綺麗に整列し、つまらない校長先生の話を聞く。自分で言っておいてなんだけど、この場合の「つまらない」は「校長先生」と「話」のどちらにかかっているのだろうか。


 選手宣誓や校歌斉唱といった形式ばった開会式を終えると競技が始まる。


 最初種目は百メートル走。私はこの選手になっているので一時的に体育委員のテントを離れる。



「おつかれ」

 私と同じく百メートル走に選ばれている麻衣が手を振っている。


「おつかれ」

 私は手を振り返す。



 二人で出場者の列並び、音楽に合わせて入場する。


 保護者たちがカメラを構え、子どもたちの晴れ姿を撮っている。私の親も例にもれず、大きなカメラを構えている。恥ずかしい。


 まあこれが終われば私の出番はない。親も午前で帰ると言っていたし少し我慢するだけだ。


 体育祭の一番最初の競技の第一走者。


 緊張してきた。



「瑞希、頑張って」

 麻衣が私の背中をたたく。


「ありがとう。麻衣も頑張ってね」



 うん、うまく走れそうだ。


 それにほんの十秒の出来事じゃないか。


 トラックに並び、位置についてヨーイする。


 ドンの合図で走り出す。


 全力。周りは気にしない。


 ほんの一瞬。もうすぐゴールだ。


 私がテープを切った。


 ちゃんと靴ひもを結んでおいてよかった。


 一と書かれたの旗の後ろに座る。


 汗がどっと出てくる。


 呼吸を整えている間に、次々とレースが行われる。


 ピストルの音が閑静な住宅街に響き渡る。しかも何発も。やはり学校の近くに住むのはやめよう。


 麻衣も一位を取ったようで、私の列の後ろに座っている。


 百メートル走の全レースが終わり、退場する。


 私はクラスのところには戻らずに、体育委員のテントに向かう。



「おつかれ、瑞希」

 体育委員のテントに向かう途中で麻衣に声をかけられた。


「麻衣もおつかれ」


「体育委員のテントに行くの?」


「そうだよ」


「ちょっと寄ろうかな」


「いいけど、何もないよ?」



 麻衣と一緒に歩く。


 途中、放送委員のテントの前を通ったとき、麻衣テンションが変わった。



「幸助! 私の走り見てた?」


「あ、麻衣か。いや、見てないよ。放送委員で忙しくて」


「えーひどい! 見てって昨日メールしたじゃん」


「見れないかもしれないってメールしたじゃん」


「そうだけどさぁ」



 そういうことか。これが狙いで、ついてきたんだな、麻衣。


 奥で百村さんがパイプ椅子に座っているが、やはり元気がない。


 さくらちゃんが看病というか、相手をしている。


 私はもういいや、麻衣をおいてテントに戻ろう。

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