百村りか④
「それじゃあ百村さんはどうする?」
「え? どうする?」
ってどうする?
「俺は体育祭がいいと思うけど」
「う、うん。私もそう思う」
よくわかっていないままに答えてしまった。
「じゃあそうしよう」
佐井君が手を挙げて「はい」と言う。
「一年D組の佐井と百村は体育祭を希望します」
山田先生が黒板に体育祭と書いて私と佐井君の名前を書く。
「他に体育祭の希望はいるか?」
山田先生の問いかけに何人かが手を挙げ、黒板に名前が足されていく。
「これくらいいればいいだろう。体育祭はこの十名を中心にお願いします」
あ、体育祭のときの放送委員の面子を決めていたのか。……って、え、そうなの?
「体育祭に決まったんだね」
一応確認のため聞いてみる。
「うん。希望通りになったね。あれ? 嫌だった?」
「いやいや、そんなことないよ」
「よかった。百村さんってスポーツできそうだから体育祭は選手としての方が活躍できたかもしれないって、決まってからだけど思って」
「大丈夫。できることなら何の競技にも出たくないから」
体育は得意な方だ。ただ得意なだけで好きではない。
だけど成績がいい分、気持ちとは裏腹に競技に選出されてしまう。
放送委員という隠れ蓑で公式にさぼれるのであれば、それはありがたい話だ。
「俺もそのつもりで体育祭の放送委員を希望したんだ」
いたずらっぽい笑顔で佐井君が白状するように言う。
佐井君も私と同じ考えだったんだ。
「放送委員までサボったりして」
「そこまでじゃないよ」
佐井君が笑う。
あれ? 自然に冗談を言っていた。そんな余裕があったんだ。それに自然という文字のゲシュタルトも復旧しているではないか。
「百村さんって女の子のわりに話やすいね。百村さんが一緒だったら放送委員も楽しくやっていけそうだな」
「そ、そう? わ、私も佐井君とでよかったと思ったよ」
「じゃあこれからよろしくね」
「う、うん。よろしく」
体育祭以外の学校行事での担当も着々と決まっていったようだ。語尾が「ようだ」と断定できない理由は、佐井君から思いもよらない言葉をかけられ、委員会の話に集中できなかったからだ。
今まで男子からは女子とは思えないから話やすいと言われていた。それで納得していた。
でも佐井君は女子と認めてくれた上で話やすいと言ってくれた。
「担当、木曜日の朝になったね」
「え、あ、そうなの?」
「あれ? 木曜日は都合悪かった?」
え、何? 木曜日って? 朝? きょろきょろと周りを見渡す。黒板には横軸に月曜日から金曜日まで、縦軸に朝と夕の計十個のマスがあり、その中に名前が入っていた。
机に視線を落としレジュメを確認する。
なるほど、校内放送の担当を決めていたのか。
「ううん、大丈夫。ただ私、朝は弱いから、遅刻しないか心配だな」
「俺もその心配はある。変えてもらえるかな?」
でも放課後はバイトをしようと思っているし、もし彼氏ができたら出かけたい。だとしたらやっぱり朝のほうが都合がいいかもしれない。
「大丈夫。このままでいいよ」
「そう。じゃあ木曜日は俺ら二人はみんなより早く登校することになるね。がんばろう」
佐井君と私、二人だけがみんなより早く登校するのか。そして仕事が終わったら二人で教室に向かうってことになる。
わ、悪くない。
「う、うん。がんばろう」
今日は月曜日だから、三日後の朝から委員会の仕事が始まる。早速二人だけがみんなより早く登校することになる。
わ、悪くない。