大沼愛⑦
今日のホームルームは私が司会で北野君が書記をする。
次のレクの男女ペアを作るのが今日の決め事。
高校生の男女ペア決めなんてかなり難航するだろうと予想できる。
こんなことをしてどんな意味があるのだろうかと思うが、先生たちの決めたことだ。私はそれに従うだけ。
私が今日の議題を発表すると教室中がざわついた。
そりゃそうだろう。私もそうだけど、高校生とは多感な時期だ。これはなかなかだ。
「おい、佐井は最後でいいだろ?」
南君が後ろを向いて佐井君に言った。
「え、なんでだよ」
佐井君が驚いたように言う。
始まった。男子はこうやって騒ぎ立てる。
佐井君がかわいそうだ。
本当はここで私が制さなくてはいけないのだろうけど、なかなか場を戻すタイミングがない。
「とにかく俺に彼女はいない」
佐井君が時を止めた。
教室が一瞬静かになった。
え、彼女いないの? 私がそう思ったのだから、ほかの人たちもそう思ったに違いない。
あ、違う。今だ。今が入るタイミングだ。
「ちょ、ちょっと、男子だけで盛り上がってないで話進めてよ」
小川さんに先を越された。
でもその通りだ。私の代わりに言ってくれたと感謝しよう。ありがとう。
「それじゃあペアの続きをします」
気が動転していたのか、言い間違えてしまった。なんだよ「ペアの続き」って。「ペア決めの続き」って言うところだろう。誰も気が付いていないようなのでよかった。
「ペアの希望はありますか?」
私が学級委員じゃなかったら、手を挙げているかな……?
あれからずっと抑え込んでいるけれど、本当は……。
いや、彼女がいなくたって、友達の好きな人だということは変わっていない。
でもそんな気持ちも全部捨てて、本当の気持ちに正直になれれば違う何かが待っているかもしれない。
待っているかもしれないけれど、待っていないかもしれない。
正直になったところで、期待している未来に行きつかないかもしれない。行き着かない可能性の方が高い。
うん、私は学級委員。学級委員は取りまとめるのが仕事。
やっぱりここで自分のエゴを出すわけにはいかない。
パラパラと手が上がる。
小川さんが手を挙げている。
うん。ここで私が手を挙げても意味はない。
光もそう思っているだろう。やはり手を挙げていない。
なぜだかわからないけれど、ホッとした気持ちを抑えて、手を挙げている人に希望を聞くことにした。