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大沼愛⑥
家に帰ってからも光の驚いた顔、怒っているような不機嫌な顔、なんだか悲しそうな顔が忘れられなかった。
しかしそれと同時に、佐井君の顔まで浮かんできた。
嬉しかったのだ。おすすめした本を読んでくれたことが。面白かったと言ってくれたことが。
光が佐井君の事を好きなのは、言質こそ取っていないが、揺るがない事実。これはもうわかりきっている。
佐井君は友達の好きな人。
光が佐井君をいいなと思う理由が今はわかる。
わかってしまった。
これだったらわからないままの方がよかった。
こんなの無理ゲーだ。
佐井君は友達の好きな人。しかもその人は彼女がいる。
入り込む余地なんてどこにもない。
そんなに大きなリスクを背負ってまで手に入れたいものではない。
それに少しドキドキした程度。
この気持ちにそれ以上のものはないはずだ。
うん、少し舞い上がってしまっただけ。
そう、そういうこと。
そんな不確かな気持ちのまま動くなんてできるわけがない。
大切なものを見失うところだった。
私にとって光は大事な友達。
揺るがない事実。これはもうわかりきっている。