大沼愛②
「それでは、学級委員は大沼さんと北野君にお願いします」
担任の佐藤先生が決定を下す。
「はい、みなさんよろしくお願いします」
私は頭を下げる。
入学してからまだ間もないクラスにすぐに打ち解ける方法を私は知らない。
やりたくもない学級委員という役割を担うことでクラスに居場所を作る。
これで私はクラスに必要な人間となった。
「大沼さん、学級委員をやるなんてえらいね」
一番前の席の女子が話しかけてくれた。
「そんなことないよ。誰かがやらなきゃいけないしね」
イラスト同好会に一緒に体験入部をしている矢野口さんだ。
高校での初めての友達だ。同じマンガが好きで気の合う友達だ。
このクラスの佐井君と同じ中学校だったと聞いている。
私は南君と同じ中学だった。
矢野口さんと佐井君は挨拶する仲だけど、私と南君は挨拶をする仲ではない。
南君は佐井君と違ってまだ子供っぽい。
妹の麗奈ちゃんはあんなにも可愛くてしっかりしているのに。
スクールカーストの底辺の私とは関わりたくないのだろう。
スクールカーストも気にしないし、南君の事も気にしないので何も問題はない。
次々に委員会の人事が決まっていく。
図書委員に片倉君と長峰さん、体育委員に南君と日吉さん、そして放送委員に佐井君と百村さんが選任された。
矢野口さんは特に何もしない。そういうタイプらしい。
話をしてなんとなくわかっていたけれど、私よりも行動をしないタイプだ。
だからといって嫌いになることもない。他人は他人、私は私。
南君は確かに運動は得意だった。だから体育委員は合っていると思った。だけど選任の際の挨拶は少しスベっていた。空気を読めない性格も中学校から変わらずに進学をしたらしい。
案外すんなり委員会メンバーが決まった。こういうのって結構長引くもんじゃないのかな? 早く終わる分にはいいのだけれど。
そのあとはクラスの役割を決めていく。
ここからは学級委員の仕事になるらしい。佐藤先生がこちらに仕事を振ってきた。
「それではクラスの役割を決めていきます。希望はありますか?」
私がクラスに問いかけると、パラパラと手が上がる。
それを確認すると北野君が黒板に名前を書いていく。
佐藤先生もフォローを入れてくれる。そのおかげもあってすぐにクラスの役割も決まった。
授業の終わりの時間まで少しあるが、佐藤先生は教室を出なければ終わりにしていいと言ってくれた。
北野君と先生からもらった資料を基に今後の学級委員の流れを確認する。
近いうちに各委員会の全体会議がある。放課後だから部活の先生に伝えておくようにということだった。
同じように各委員会も打ち合わせをしている。
キーンコーンカーンコーン
委員会決めのホームルームが今日最後の時間だったので、チャイムが鳴るとクラスメイトは勢いよく外を出て行った。
元気があって良いことだと思います。
荷物をまとめていると、矢野口さんがこちらに来た。
「一緒に部活行こう」
「うん。いいよ」
イラスト同好会は正確には部活ではないけれど、便宜的に部活と呼んでいる。
部室は美術準備室。あの部屋に一人で入るのはなかなか勇気がいる。
早く慣れたいものだ。
ちなみに準備じゃない美術室は想像通り美術部が使っている。
美術部の部員が道具を取りに準備室に入ってくることがあるが、その時はかなり気まずい。なんか申し訳ない気持ちになる。三年も使っているはずの三年生もたちも、未だにこの気持ちを克服できていない様子だ。
スクールバッグを肩にかける。
「お待たせ。それじゃあ行こう」
「うん」
矢野口さんが隣を歩く。
今日は入部届を出そう。
あの人がいるなら入るとか、誰かがいないと嫌だとか、そういうのは私にはない。
だけど一応矢野口さんにも言っておこう。抜け駆けとか思われたくないし。
多分矢野口さんは私が入らないと入らないだろう。そういうタイプだ。
だからといって嫌いになることもない。他人は他人、私は私。
そろそろ部室だ。今日も楽しく部活動だ。