小川麻衣③
「とにかく俺に彼女はいない」
幸助がホームルームの時に男子とのやり取りの中できっぱり言い切った。
うわさはただのうわさだったようだ。
なんとなく彼女については聞かないほうがいいのかなって私なりに気を使っていた。
やり取りはたくさんしていたのに。
まあ私にとっては彼女の有無は関係ないし。
でも驚いた。
彼女がいると思って過ごしていたから。
それに彼女がいる男子だから惹かれていたと思っていたから。
略奪って気持ちがいいけど、それだけで熱が冷めちゃったりする。
付き合うことが目的だったはずなのに、いつの間にか略奪することが目的になっていた、みたいな?
今回のケースはどういうことだろう?
略奪だと思っていたけれど、略奪じゃなくなった。
もし略奪することが目的になっていたら、この時点で私は幸助に対して冷めているはず。
やっぱり全然冷めていない。
むしろこの状況を、ラッキーって思っている。
彼女がいなくても惹かれている。
付き合うことが目的のままだったようだ。
今回は、きれいな恋愛ができそうだな。
そうだ、今日のホームルームはレクの男女ペアを作る予定だった。
早く話を進めなくては。
「ちょ、ちょっと、男子だけで盛り上がってないで話進めてよ」
立ち上がり、動揺していないふりをして発言をする。
「ああ、ごめんごめん」
上田君が手を合わせている。
別に怒っていないけれど、語気が強かったかな?
「それじゃあペアの続きをします」
学級委員の大沼さんが仕切り直してくれた。
「ペアの希望はありますか?」
あるに決まってるじゃん。
私以外に誰が幸助とペアになれると思っているの?
このためにアプローチをしていたようなものだ。
でも今回の恋愛はきれいなものにしたい。
ここはおしとやかにいこう。
私は姿勢を整えて、すっと黙って手を挙げた。