上田あん③
気が付いたら眠っていた。夕方になっていた。
このくらいの時間ならまだ佐井と呼ばれる男は帰っていないだろう。
良太の友達はもっと暗くなってから帰る傾向にある。
耳を澄ましてみると、良太が佐井とがやがやと楽しんでいる声が聞こえる。
一度伸びをする。あくびが出る。ついでに涙も出た。
階段を降りる音がした。私は部屋を飛び出し、待ち構える。
「お邪魔しました」
「また来てね」
お母さんも玄関まで来ているようだ。
「じゃあな佐井」
「うん、じゃあ明日学校で」
玄関を出てくる佐井と呼ばれる男。
「あんちゃんもバイバイ」
佐井と呼ばれる男が私をよしよしと頭をなでる。
私はうれしくなって佐井と呼ばれる男に飛びつく。
「やめろよ、あん。佐井が困ってるぞ」
「大丈夫だよ。かわいいね」
そういうと佐井と呼ばれる男は門を出て帰っていった。
「あん、お前もっとしっかりしろよ」
佐井と呼ばれる男がいなくなるなり良太は私にそう言った。
「まったくもって吠えたりしないし、番犬らしくかっこよくいろよ」
良太に言われ、しゅんとする。
うるさいな。部屋に戻ろう。
とぼとぼと歩き、庭に置かれた「あん」と書いてある部屋に向かう。
良太とお母さんは家に戻る。
今日の気候は過ごしやすい。
次はいつ来るかな。佐井と呼ばれる彼は。