矢野口光⑤
良かれと思ってやってくれているのだろうけど、こちらにとってはすごく迷惑に思うことってある。
今日のホームルームがそうだ。
男女でペアにならなくてはいけない。
どういう神経をしているんだ。
これがいじめにつながることだってあるんじゃないか?
あと男女で分けることに意味があるのか? ジェンダー的な問題は大丈夫なのか?
困ったものだ。
私は男子の友達は皆無。
しいて言うなら、同じ中学だった佐井君くらいだろうか。
でも小川さんが狙っているし……。
「それ、姉な」
突然、佐井君が男子との会話の中でうわさの彼女の真相を暴露した。
あーあ、言っちゃった。
私だけが知っていたことなのに。
なんだか寂しいな。
「ちょ、ちょっと、男子だけで盛り上がってないで話進めてよ」
身を乗り出した小川さんが言う。
まあそうなるよね。
彼女がいると思っていた好きな人に、彼女がいなかったんだから。
うんうん、そうなるよね。
「それじゃあペアの続きをします」
学級委員の愛ちゃんが頑張ってホームルームを進めている。
「ペアの希望はありますか?」
希望かぁ……。
もちろんある。
佐井君とペアになれれば幸せだろう。楽しいだろう。
でも私は……。私には……。
やっぱり自信がない。
私は……手を挙げられない。