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矢野口光④

 それ以来、美術の時間で一緒になることはなかったけれど、朝は「おはよう」帰りは「じゃあね」って言えるようになった。それだけで十分。私のヒーロー。


 私の自慢は、誰よりも早く佐井君の魅力に気が付いたということ。自負がある。


 誰にも言うつもりもないので、私一人が心の中でみんなへの優越感を得られる。


 だけど私は佐井君と付き合いたいとは思わない。私じゃ釣り合わないから。釣り合う女になれる気もしない。


 だから遠くで見ているだけでよかった。あ、危ないラインはわかっているつもり。これ以上やったらストーカーだとかそういうラインはちゃんと守っている。


 そして私は佐井君と同じ高校を受験した。中学校だけでなく、高校の佐井君も見ていたかったから。


 嬉しいことに同じクラスになれた。これは神様からのサプライズだ。


 入学してから数か月がたったとき、思いもよらない展開が待ち受けていた。やっぱり見届けていてよかった。



  □◇■◆



 クラスの男子が、ひそひそと話をしていた。佐井君に彼女がいると言っていた。


 最初そのさわりだけを聞いたときドキッとしたけど、よく聞いてみるとその相手は佐井君のお姉さんだということが分かった。


 なぜだか佐井君はお姉さんのことを話していないようだ。佐井君の勝手だからいいけど。


 そのうわさは瞬く間に広まった。間違った情報なのに、誰もが信じていた。


 私は内心嬉しかった。本当のことは私しか知らない。これも優越感に浸れる私一人の楽しみになった。


 高校生活は中学校の時とは少し違った。私もイラスト好きな友達ができて、一緒に過ごすようになった。イラスト同好会に所属し私なりに高校生活を楽しんでいた。


 佐井君とも目が合えば挨拶はしている。何もかもが充実していた。


 でも少し気になっていたのは、佐井君がモテているのではないかという点だった。なんだか女子の佐井君を見る目が中学校の頃の女子たちの目とは違って見えたのだ。


 私だけが佐井君の魅力を知っているつもりだったけど、やはり周りにもばれちゃうのかなと少し残念な気持ちになった。


 私は佐井君と付き合ったりすることは考えていないので、佐井君が誰かとお付き合いするのであれば影ながら応援するつもりだ。


 だけど今の状況は少し面白い。


 本当はフリーな佐井君だけど、彼女がいるといううわさが流れているので、女子たちはアプローチできない。


 小川さんはそこら辺関係なく行動しているようだけど。


 佐井君の春が遠のいてしまっているのは心苦しいが、本当のことを知っているという点では私は高みの見物状態だ。


 悪い性格をしていると思う。自分でもそれはわかっている。


 でも自分に自信がないのだ。これくらいでしかみんなに勝てない。本当は勝ってもいないことも分かっているけど。


 とにかく、私から何か言うつもりもない。ただ黙ってみているだけ。私は佐井君を見ているだけ、それでいい。


 たとえうわさの真実が明るみに出ようとも、私のスタンスは変わらない。


 というより……。


 もう、変えられない……。

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