表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/72

矢野口光③

 その日のうちに来た。佐井君に絵を教える時間が。本当に来たのだ。


 これっぽっちも期待していなかったけれど、少ししか希望を持っていなかったけれど、それなり望んでいたけれど、すっごく願っていたけれど、嬉しい時間が来たのだ。


 それは美術の時間。美術室の中で席は自由に各々何かの模写をするという課題だった。


 私はいつも通り、一人で黙々と絵を描こうと席を立ち、教室の隅へ移動したときだった。



「矢野口。早速教えてよ、絵」


「え、あ、うん。いいよ」



 自然に佐井くんは隣に座る。もともとここが佐井君の席だったのかなと錯覚する。


 机に画用紙を広げ、ペンを並べる。



「で、どうしたらいいかな?」


「ま、まず、大雑把でいいから大体のレイアウトを決めて……」



 何を話したかあまり覚えていない。多分ちゃんと絵の描き方は教えられたんじゃなかな。それは多分大丈夫……なはず。


 多分大体教えた後は、それぞれ黙々とペンを走らせる。


 二人並んで。


 後で他の女子からなんか言われるかもしれないけど、まあいいや。絵を教えたって言えば、それで納得するんじゃないかな。私と佐井君に何かがあるとは思わないだろう。実際何にもないんだからか。


 邪念が頭を過ぎりながらも、絵を描き終え、佐井君を確認すると、ちょうど終わったようだった。



「ありがとう」


「い、いえ。これくらいは別にどうってことないよ」


「そうかな。すごいと思うよ」


「あ、ありがとう……」



 褒められるのに慣れてないから、リアクションに困るな。ちゃんと会話になっているかな。語尾が小さくなってしまう。


 提出の時間まで少し余裕があったので二人っきりで話をした。


 佐井君の趣味はミステリー小説を読むことらしい。私も今度読んでみようかな。そろそろライトノベル以外も読んでみよう。


 そしてさっき言っていた佐井君のお姉さんのことを聞いた。二個上だから三年生のお姉さんだ。校内でも一二を争うほどのきれいな佐井先輩がそうだった。あの佐井先輩が佐井君のお姉さんだなんて……少し驚いた。


 佐井って苗字はそんなにいないけど、なぜだか結び付かなかった。素敵な姉弟だと思う。


 佐井君自身はイケメンってわけではないけど、まあ顔は整っていると思う。もしかしたらお姉さんの情報が入ったから全体のステータスが上がったのかもしれない。お姉さんバフというのだろうか。まあ言わないよな。


 私は一人っ子。なんかうらやましいな。お姉さんと待ち合わせとかしてるんだ。いいなあ。私も佐井君と待ち合わせしたいな。あ、これは姉弟とか関係ないか。佐井君との待ち合わせがうらやましいだけだ。


 時間になったので、二人で先生の所へ絵を提出しに行く。



「ありがとう」


「ううん。こちらこそ」



 言葉をそれだけ交わすと、それで終わり。二人は別々にクラスへと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ