百村りか②
それは桜が空ではなく、道路をピンクに染めていた頃だった。
入学してから間も経っておらず、私はまだ友達ができていなかった。
新しい環境に身を置きたいと思って、同じ中学の友達のいないこの小平中央高校を選んだのだけれど、今は少し後悔している。
周りのクラスメイトは早々に友達を作り、楽しそうにしている。出遅れてしまった。
女子はいろいろと面倒なのだ。女子が集まれば派閥ができる。中学のときはそのしがらみが嫌でうんざりしていた。
昨日まで仲良しグループだったのに、メールで喧嘩をしたとか何とかで次の日には分裂していたり、仲良くなかった女子が知らない間にグループに入っていたり。
私も女子なのになぜだかその空気には合わなかった。
中学時代は友達からイケメンとか言われていた。顔の話ではなく、性格の話だろう。男っぽい自覚はある。否定はしない。
「りかが男子だったら付き合っているのに」
このセリフはよく言われていた。
だけどこのセリフを言う女子は、私が男だったら付き合いたくないタイプの女子だ。むろん私に百合の気があったとしても付き合わない。
でもそれは心の中にとどめておく。笑って「ありがとう」と言うだけ。中学生でもそれくらいの処世術は身に着けている。
それも今はいい思い出。友達がいないのだからそんなやりとりも今はない。
だからといって焦っているわけではない。友達くらいそのうちできるだろうと楽観的に考えている。
できなかったらできなかったで構わない。学校は勉強をするところだと割り切ってしまえばいい。まあ勉強を頑張るつもりもないけれど。
ちなみに部活に入るつもりもない。中学の時と違って、この学校は帰宅部が認められている。
ますます友達ができない環境だ。
部活に入らない代わりにバイトでもしようと思っている。そこで出会いがあればいいかな。いや、ないな。
「はぁ。出会いか……」
なんとなく考えていたことだったが、出会いという自分の言葉に反応してしまった。
何を隠そう生まれてこの方、彼氏がいたことがないのだ。高校一年生だから珍しいことではないとは思う。
しかしいる人にはいるのだ。彼氏が。
強者になると、高校一年生にもかかわらず、三、四人と付き合ったことがある人もいるという。
暇だなと嘲笑ってもいいのだけれど、妬みだと言われれば否定はできない。
正直に言おう。私だって彼氏は欲しい。
放課後一緒に帰ったり、休みの日に遊んだりしたい。
でもそんなことは言ったことはない。
不本意にも培ってしまった男前キャラが邪魔をする。
女子っぽいことをするのはむず痒くて恥ずかしい。
わかっている。そのせいで男子からも女子として見られていないことも。
せっかく中学の友達のいない高校に入ったのに、男前キャラを変えられない。
もう一生これでいい。
そう腹をくくったはずなのに、高校に入ったらカップルがそれなりにいて、うらやましくなってしまった。決意にひびが入ってしまった。
でも変えられない。しかし彼氏が欲しい。だが変えられない。けれども彼氏が欲しい。
堂々巡りだけど、結論は出ている。結局は現状維持。
変えたところで彼氏ができる保証はない。変わらないほうが省エネで傷も少ない。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、放課後になる。
今日は放課後に委員会がある。初めての顔合わせなので、遅れるわけにはいかない。
私は放送委員なので荷物をまとめると視聴覚室へ向かう。
視聴覚室は一年生の教室と同じ校舎の最上階の四階にある。
なんでだろう、視聴覚室って上の教室にある気がする。他の学校もそうなのかな?
「百村さん」
視聴覚室へ向かう途中で声をかけられた。
私に声をかけてくるのはこの学校には先生くらいしかいない。
だけど振り返った先に立っていたのは先生ではなかった。