萩山多喜子⑤
次の日から学校中、いや、この地域中が私の事故の話題で持ちきりだった。
私を跳ねたトラックの運転手は数日後捕まったようだ。しっかりと裁きを受けてください。
そしてしばらくすると、学校に変なうわさ話が流れていた。通学中の生徒たちが話しているのが聞こえた。
それは私が事故にあった日、小平中央高校に死神が出たといううわさだ。
なんとその死神は黒い傘に黒いコートを身にまとっていたそうだ。
さらに、私はその死神に魅入られ、命を落としたことになっている。
最近みんなの帰りが早いなと思っていたのは、死神と遭遇しないように早めに帰宅しているからだろう。
その死神の正体が私だということを知る者はいない。真実を知るものは私以外いない。
あの日きっと誰かが見ていたのだろう。うわさ話など真実を知れば大抵こんなくだらないものだろう。
そして数週間経つと、うわさは予想以上に大きくなった。
死神に魅入られ命を落とした女子高生。
ゴシップ記事にでもなったらしい。
面白半分にここに来る人が増えた。
そういえばルポライターらしき人物がこの辺りを取材していた。
それでも数か月は私が命を落としたこの場所に、花を持ってきてくれる人、手を合わせてくれる人がいた。
両親は毎月、月命日に来てくれた。その度に泣きたくなったが涙も出ないし、こちらの声も聞こえない。
しかし一年が過ぎると、両親ももうここには来なくなった。普通に考えて、お墓にお参りに行っているのだろう。
私はここにいるのに。
両親すら来ないのだから、高校生はもうとっくに忘れている。誰一人として手も合わせないし、私を思い出してこちらを見たりもしない。
私はここにいるのに。
ただ時間だけが過ぎていった。
事故から十五年以上が過ぎ、私の同級生は立派な大人になっていた。
私が生きていたら、文学部に行きたかったな。司書でも取って図書館勤務なんていいな。
そんなことを考えていたら、手を合わせた一人の男子高校生が私の前に立っていた。
そして顔を上げると、こちらを見てニコッと笑った……ように見えた。
私の姿は見えないはずだから、気のせいだと思う。
だけど、その時は目があったと思ったのだ。奇跡が起きたと思った。
「待って」
声をかけたつもりだが、やはり彼には届かなかった。彼は去っていった。