南麗奈⑤
多分あの時から私の気持ちは、佐井さんに向いていたのだろう。
最初はあんな高校生になりたいなっていう程度だったんだと思う。それが段々大きくなって、好きって気持ちに変わっていったんだろう。
目を背けていたけど、そのきっかけは多分あの出来事だ。
□◇■◆
学校に着くなり、男子が私に突っかかってき。
「おい、南。お前高校生の男と歩いてただろ」
どこで見られていたんだろう。こうなったら嫌だなって思っていたことが起きてしまった。
「違うよ。あれはお兄ちゃんの友達だよ」
「兄貴の友達と付き合ってるのかよ」
「違うって。お兄ちゃんに用があって家に行く途中であったから一緒に帰っただけだよ」
「本当かな。どうせ好きなんだろ?」
「そんなわけないじゃん! 会ったのだってまだ二回目だよ」
「あつあつだな」
「うるさい!」
本当にうっとうしい。ばかばかしい。
私が佐井さんと付き合うわけ……ないじゃない。
「麗奈、相手するのやめな」
花蓮が味方してくれる。
「うん、もう放っておく」
「それがいいよ」
男子が「ヒューヒュー」はやし立てて勝手に楽しんでいる。二年後には高校生になるのに。この男子たちは佐井さんみたいな高校生になれないだろうな。
「麗奈、その人ただの友達なんでしょ?」
席に着くと花蓮と向かい合って話しをする。
「私の友達ではないよ。お兄ちゃんの友達」
「そうだよね」
「うん」
そうだよ、佐井さんは私にとって友達でも何でもない。お兄ちゃんに用があるときだけ会える人。
事実を言葉にしたらなんとも言えない気持ちになった。空虚感? 虚無感? ううん、多分何でもない。うん、これは気のせい。
「花蓮、ありがとう」
「ううん、気にしないで」
花蓮はニコッと笑て答えてくれる。
「でもうらやましいよ。お兄ちゃんがいて、その友達が出入りするなんて」
意地悪をするように花蓮が言う。愛のある意地悪は嫌いじゃない。
「いいことなんてないよ。お兄ちゃんの友達が来てる時ってほんとうるさいんだもん」
「えー賑やかでいいじゃん」
「ほんと想像しているのとは全然違うからね」
花蓮は弟がいる。逆に私は弟が欲しい。無い物ねだりだ。それを言うなら彼氏が欲しいとも思う。それが佐井さんだったら……。
冷やかされたせいで、逆に意識をしてしまう。
勘違いされて恥ずかしいと思うと同時に、なんだか妙に嬉しいという気持ちも芽生えている。
「おーい席に着け」
ガラガラと大げさに教室の戸を開け先生が入ってくる。
私は考えるのをやめた。