南麗奈④
「あれ? 南の妹の麗奈ちゃんだよね」
学校からの帰り道、突然声をかけられた。いきなりだったので、不信感や不快感があった。だけど声の感じから、不審者ではないだろうと思って振り返って声をかけてきた人物を確認した。
「あ、たしか、佐井さん?」
そこに立っていたのは、この間、家に遊びに来ていたお兄ちゃんの友達だ。その時は特に大した印象は無かったけれど、珍しい名前だなって思っていたので、覚えていた。
「覚えててくれたんだ」
「はい」
「ちょうど南の家に行くところだったんだ」
「そうなんですね」
「家に帰るところ? それなら一緒に帰ろう」
「は、はい」
男の人と一緒に歩くなんて照れ臭い。クラスの男子が見てたら冷やかされちゃうかもしれない。嫌だな……。でも断る理由も見当たらなく、一緒に帰ることにした。
「麗奈ちゃんって部活やってないの?」
「やってますよ。吹奏楽部です」
「かっこいいね。担当は?」
「フルートです」
「人気パートじゃん。すごいね」
「あ、ありがとうございます」
「今度聴かせてよよ。定期演奏会とかないの?」
「校内なら……」
「そっか、それじゃあ機会があったら聴きに行くよ」
「ありがとうございます」
なんか大人だな。お兄ちゃんとは大違いだ。
まだお兄ちゃんも佐井さんも高校生になってまだ一ヶ月しか経っていないはずなのに、こんなにも違いがあるのか。私は佐井さんのような高校生になりたい。
私なりの高校生のビジョンが立ったあたりでお家に到着。
「ただいま」
「おじゃまします」
私に続いて佐井さんもお家に上がる。
「お、佐井、麗奈と一緒に帰ってきたのか?」
お兄ちゃんがリビングから顔を出す。
「たまたまそこで麗奈ちゃんと会ってね」
「ふーん」
「なにそれ、おかえりくらい言ってよ」
「ああ、おかえり。佐井、ゲームしようぜ」
それだけ言うとお兄ちゃんは階段を駆け上がっていった。お兄ちゃんは本当に佐井さんと同い年なのだろうか。
「あ、ああ。うん。そうだね」
佐井さんも戸惑っていそうだ。
「ほんと落ち着きないんだから」
「麗奈ちゃん、またね」
佐井さんがお兄ちゃんの後を追って階段を上がっていった。
「は、はい」
私の声は届いたのだろうか。