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百村りか①
佐井君に彼女がいないという事実がわかると、入学当初の記憶がよみがえった。
それはまるで真っ暗なトンネルを歩き続けてやっと光が見えた時のように希望に満ちていた。
今でこそガセネタであったと裏が取れたが、佐井君には彼女がいるといううわさが広まってからは落ち着かなかった。
何も始まっていないのだから、何かが終わったわけではなかった。そのはずだった。
うわさが広まった頃は、委員会が始まってすぐのことで、ワクワクする気持ちで佐井君との仕事をしていた。まさに寝耳に水だった。
うわさを聞いた後は毎週会うのが辛かった。体育祭なんか最悪だった。
でも、うわさはただのうわさだったのだ。一度消えかけた心の中の小さな炎が再び大きくなっていくのを感じた。