南麗奈③
「麗奈、大丈夫?」
お母さんの声で起こされる。いつのまにか寝ていたようだ。
私は布団の中にで丸くなっていた。
あ、そうだ。佐井さんに彼女がいるってことを聞いて、こんな状況になっていたんだ。
寝たらすっきりした……と思い込もう。
「大丈夫」
「もう朝よ。学校行く準備しなさい」
「え、もう朝なの?」
「何寝ぼけてるのよ。調子は大丈夫なの? 休む?」
お母さんが優しくしてくれる。涙が出そうだ。
でもここで休んだら、本当に立ち直れなくなるかもしれない。気丈に振る舞おう。
「大丈夫。学校行く」
「わかった。でも何かあったらすぐ連絡してちょうだい。早退してもいいんだから」
「ありがとう。とりあえず準備するから」
「わかった。じゃあ朝食の準備しておくわね」
「はい」
お母さんが部屋を出ていく。私は体を起こし、ベッドに腰を掛ける。
やっぱり休むって言えばよかったかな……。しょうがない。行くって言っちゃったし、制服に着替えよう。
重たい腰を上げ着替え始める。自分でもわかるくらいゆっくりだ。わざとじゃない。多分本心は学校へ行くのが嫌なのだろう。それが体に出ているようだ。
だからといってだらしない格好をするのはよくない。ちゃんと身だしなみは整えておく。リボンも曲がっていないし、ポニーテールもちゃんとできてる。問題なし。
リビングに行くとお母さんがトーストとヨーグルトをテーブルに用意してくれていた。毎日これが私の朝食。八枚切り一枚が朝は限界。それ以上は食べられない。
席につくとお母さんが淹れたての紅茶をトーストの隣に置く。
「ありがとう」
「うん」
お母さんの趣味の紅茶。私はまだ味の良さがわからない。すごい匂いの紅茶だったり、本当に紅茶なのかと思うほどの色の紅茶が出てきたりする。だけど今日の紅茶は飲みやすそうだ。
紅茶で口を潤し、トーストに噛り付く。
あ、だめだ。多分全部食べられない。
昨日の夕飯も半分くらい残したのに、おなかの中は空のはずなのに、食べ物が喉を通らない。
結構ダメージ大きいんだな。
トーストを二口飲み込み、ヨーグルトを流し込み、紅茶を飲み干し、ごちそうさま。
「麗奈、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。昼くらいにはよくなるんじゃないかな? 給食はちゃんと食べる」
「それならいいけど」
「うん」
それから歯を磨き、教科書を用意し、靴を履く。
「いってきます」
「何かあったら連絡するのよ」
「わかってる」
「いってらっしゃい」
家から学校までは十五分。毎日歩いている道だ。小学校も中学校の隣にあるので八年目の通学路。別に何の思い入れも……なくはない。
佐井さんと歩いたことがある。
思い出の、きっかけの、通学路だ。